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序章8-1

 クラブを知ってから、想悟がまず始めたのは、神嶽修介という男に関する情報集めだった。  神嶽は、世良の前にこの学園の学園長の座についていた男。  そして、この学園で凌辱行為を繰り広げた男。  司、隼人といった想悟の可愛い後輩を惨めに変え、殺されるまでの壮絶な末路を遂げさせた男。  想悟にとって、もっとも忌むべき敵。  しかし、彼の資料を探したが、ものの見事に破棄されていたのだ。  そこにクラブの手が回っていることは明白であるほど、あまりに不自然だった。  学園長室にならば何かあるかもしれないが、世良がふんぞり返っていては詳しく調べることもできないし、想悟を監視していると言ったその言葉は本当らしく、タイミングを見計らったかのように世良は姿を現してくる。  それとなく当時のことを知る生徒や教員に話を聞いてみようとしても、皆一様に口を閉じてしまう。やはりあの当時のことはあまり思い出したくないようだった。  どうにか聞き出せたとしても、神嶽についてわかるのは、その立場からすると少々若い学園長というだけで、どこにでもいるような凡庸な風貌だったということと、黒い噂の一つもない優しい教師だったということ。  愛すべきこの学園と関係者達をその暴虐の犠牲にしておいて、よくも優しい教師の仮面を被っていたかと、想悟は口惜しくなって唇を噛み締めた。  けれど、そう簡単には想悟だって諦めたくなかった。少しでもいい。ほんの少しでも、神嶽のことが知りたいと思った。  もちろん、彼のことは許せない。  だが、単純に同じ能力を持つ人間としても、興味があった。  なにか己の出生に関与しているのか──そういえば、生物学上の父こそオーナーだとは言われたが、母はまだわからない──もしかすると、産みの母も、彼と何か関係があったのでは。  この能力は生まれつきのものであるから、もしも想悟と同じ血を引く者が能力者であるとしたら、遺伝の可能性がもっとも濃厚だ。  考えれば考えるほど、未だ素性の掴めぬ神嶽という男の存在は想悟の中で大きくなっていった。  世良が出張で学園を留守にする夕刻を狙って、想悟は勝負に出た。  誰にも聞かれぬように、知られぬようにと細心の注意を払いながら、屋上に新堂を呼び出した。 「どうしたんだ霧島? 私に話とは?」  何の用かと怪訝な新堂に、想悟は大きく深呼吸をしてから話し始めた。 「新堂先生。神嶽修介前学園長のことは、ご存知ですか」 「神嶽先生? それは、もちろん。短い間ではあったが、私も世話になったぞ。それがどうかしたか」 「いえ、ちょっと……俺が留学していた頃の学園の様子を知りたくなりましてね。今は何をされているのかと」  その瞬間、新堂がわずかに苦い顔になった。 「…………その、霧島。お前は知らないだろうから仕方がないが、神嶽先生のことは、あまり口には出さない方がいい」 「なんですって?」 「彼は…………もう、お亡くなりになっているんだ」  想悟は愕然とした。  亡くなっている? そんなこと、信じられるわけがない。  神嶽については想悟もこの学園で使っていた名前と、クラブで支配人の地位にいる男ということくらいしか情報はないが、あのような犯罪組織に関わっている人物ならば、表向きは死亡したことにするくらいいとも容易いだろう。 「……そんなはずはない」 「いったい何を言いだすかと思えば……紛れもない事実だ」 「神嶽修介が……死んだだって? 死因は? 本当に彼を見たんですか?」 「不運な事故だそうだ。私達は葬儀にも参列したのだぞ?」 「そいつは本当に神嶽なんですか!? 証拠はあるんですか!」 「霧島!」  叱責され、想悟はハッと息を呑んだ。  目の前の新堂は泣きそうな顔をしていた。

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