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一之瀬守編3-1
守を犯した翌日、守は学園を休み、二日目になってようやく出勤したのだが、復帰した日、想悟は守と顔を合わせても一切口をきかなかった。
それは想悟自身、いざ一線を越えると相手にどんな顔をしていいかわからなかったということもあるが、それがかえって守にはあからさまに弱みを握られているようで不安になったのか。
三日目の昼休みになると、痺れを切らした守は、昼食を摂ろうとデスクを後にしようとする想悟を呼び止めた。想悟としてもそろそろ次の手を打たなければならないと思っていたところだったので、ちょうどよかった。
守を犯した際のデータは既にクラブへと提出してコピーしてあり、手元のものを消せば済むという話ではなくなっている。だが、愚鈍な守はそこまでの想像すらできているかどうか。
想悟を美術室に連れ出して二人きりになった守は、当然ながら想悟とは少し距離をとっている。さしずめ臆病なチワワ犬のように、かすかに震えながら無愛想な態度をとっている想悟を見上げる。
「お……お願いします……あ、あの写真を……消してください。その……き、霧島先生にされたことは、誰にも……言わないって約束しますから……」
そう細々と切り出した守だが、想悟の顔を見ていると、どうしても先日の凌辱行為を思い出してしまい、涙が滲んでくるようだ。
あの後はどうやって家に帰ったのか記憶はおぼろげといった様子だ。
痛めつけられた尻穴を恐る恐る清め、せっかく手に入れたと思った平穏な生活が再び壊れてしまった絶望に、涙で枕を濡らしたことだろう。
たまらず俯くと、その涙は頬を伝ってほろほろとこぼれ落ちた。
そんな守に、想悟はわずかに目を細めた。
こちらが脅迫の材料を握っていることは重々わかっているくせに、よくもまあ厚かましく言えたものか。それに、何故そんなにも簡単に泣くのか。
守の何もかもが気に入らなかった。苛々が増していき、衝動的に殴りつけたくなって拳をつくる。
が、下手なことはするものではないと深くため息を吐きながら、彼への荒んだ気持ちをスラックスのポケットに隠した。
「あんた、自分の立場がわかってるのか? 嫌に決まってるだろ。兄貴の不祥事とあんたの恥ずかしい写真をばらされたくなかったら、これからも俺に犯されろ。いいか、これはあんたには拒否権のない命令なんだ」
守なりに穏便に済ませるために、この件はたった一度の過ちと泣き寝入りしようとしたのだ。
それなのに真っ向から否定され、守は遂に声を上げてすすり泣き出した。
「オレっ……霧島先生のこと、ぐすっ……優しい人だと思ってたのに……どうしてこんな酷いことをするんですかっ……」
「……それはあんたの勝手な偏見だろ」
そう、人は見かけだけではわからないことがあまりにも多すぎる。
だがそれは守だって同じだ。
読心能力がなければ、まさかあそこまで心をシャットアウトしているなどとは想像もしなかった。見た目通りの、ドジでのろまで、馬鹿正直な人間としか思わなかったはずだ。
自分だけが特別だとでも思っているのだろうか。ああ、きっと思っているに違いない。
兄の件があってそうなったのか元からなのかはわからないが、守はどうにも被害者意識が強い。
弱い自分のことを否定したい気持ちも持ちながら、いざ攻撃されると反面、他人に責任を押し付けたがるのだ。
それは、本心ではそんな哀れなシンデレラのような自分に酔っているから。または、そうでもしなければ、自己否定感で心が壊れてしまいそうなのではないか──。
守が思った以上に厚い壁を築き、その中で守られているのがひどく脆いものなのだとすれば、少々慎重にいかねばならないのかもしれない。
だが、今後どうするにせよ、まずはこの面倒な分厚い壁は取っ払うことが必要不可欠だ。
守をもっとひどく虐めてやるために、その心だってよく知りたい。
それなら、最初くらいは、いや、最初だからこそ徹底的にやってやらねばこの守はわからないだろう。
「おい。あんた、俺に犯されたくない一心でそんな風にグズグズ泣いてるのかよ。じゃあ兄貴が今どうしているのかも、もうどうだっていいんだな」
「え…………?」
想悟は凄みながら、守が喉から手が出るほど欲しいはずの兄の存在をちらつかせる。
「ど、どういう……ことですか……? 兄のこと……どこまで、知ってるんですか……?」
案の定、守は食いついてきた。想悟が彼の素性を把握している以上、守は下手に聞き流すこともできない。
「それが知りたきゃ、あんたができることは決まってる。俺の機嫌を伺って、素直に命令を聞いていることだ」
「そ、そんな……」
「あんたは俺の良いように性処理に使われる、性奴隷になるんだよ」
「ううっ……」
理不尽な物言いに、悩ましくため息を漏らす。しかしそれだけで、守は何もしようとしてこない。
その性格上できないとわかっていつつも、こんなことはおかしいのではと激しく反論してくることもなければ、ましてや暴力に打って出ることも、その場から逃げることだってできない。
何にもできない守。
だったら、今はただ命令してやればいいのだ。
それがどんなに不条理なものであっても、今この場では、想悟こそが勝者であり支配者だ。
「おい」
改めて守を脅すように低く声を絞り出す。
「それで。あんたの話はそれだけか? もう済んだなら、とっととそこに跪いて今日の相手をしろよ」
「え……っ。あ、相手、って……そんな……お、オレはもう、あんなことは……っ!」
「人の話聞いてなかったのかよてめえは! 跪け!」
ぴしゃりと言い放つと、守は想悟の言葉の怒気に圧倒されてしまったようだ。
小さく声を漏らしながら、くずおれるように床の上にぺたんと座り込んでしまった。
そんな守の髪を引っ掴むと、想悟はズボンの前を露出させた。
苛立ちに比例するかのように、想悟のものはギンギンに硬くなって反り返っている。早くこれで守を苦しめてやりたくてたまらない。
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