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一之瀬守編8-3 ※羞恥

「もう、抜いて……くださいっ……! 痛い…っ痛いんです……っ!」 「散々犯してやってるのに、痛いは本当にないだろ……そうやって萎えさせようって魂胆かよ」  守はつらそうに四肢を突っ張らせ、首を振る。 (霧島先生の……大きいから……痛いというか、苦しくてきつくて……うう、どっちにしてもつらい……) 「もう許してくださいっ……。痛いよっ……お尻が壊れてしまいますっ……!!」 「お尻ぃ? 可愛い言い方してんじゃねぇよ。あんたのここは、チンポ突っ込まれて悦ぶケツマンコだろうが」 「そ、そんな…」 「あんたが認めるまで、突っ込んだままでいてやるよ。自分の絵にぶっかけプレイした変態教師はそれが好きなんだろ」 「うぅ……」 (好きなんかじゃない……ひどい、ひどいっ……) 「オラどうした? 言わないのか?」 「ぁ……だ、だから……オレの……け、け……」 「あー?」 「あぅっ……け、ケツ……マンコが……」 「聞こえねぇんだよ。ケツマンコの前に、"いやらしい"も付けてもらうかな」  白々しく言いながら、強く目の前の双臀を平手打ちした。 「ひぐぅっ! あぁ……い、いやらしい……ケツマンコがっ……こ、壊れてしまいますからぁっ……ぐすっ……もう、やめてくださいっ……。許して……」 「最初からそう言や良いのによ。強情張りが」  そうして、強く突き込んでいく。卑猥な言葉を無様に復唱させるのはひどく快感だ。 「ま……この分なら、兄貴みたいに、立派なマゾになれるかもしれないぜ」  恥ずかしい言葉を言えた褒美に、守にとっては喉から手が出るほど欲しい兄の情報をくれてやる。 「えっ……? ど、どういうことですかっ……。兄みたいにって、いったい……!?」 「さあ……今はまだ、あんたにくれられる情報はこれくらいかな。そんなことより、ちゃんと俺のことも感じさせてくれって」  そうは言いながらも、その実は想悟も勝の居場所、生死すら知らない。  だが、守にとってこの学園で働いている目的は、あわよくば勝の手掛かりが見つかるかもしれないからだ。他のものが奪われても、彼だけは、そう、血の繋がった兄の存在だけは。 (霧島先生が……世良さんが……あ、あのクラブの人達がもし兄さんを知っているなら……い、今頃いったいどうなってしまっているの、兄さん……)  あるいは最悪の状況も想像したか。今の守を形成しているのは、背を見て育って来た歳の離れた兄に対する感情だった。  もう想悟の声は聞こえていないらしい。ただ耳の辺りに吹き掛けられる吐息が、守の心とは真逆に、熱く燃え滾っている。 「ぁっ……、ひあっ、や……嫌だっ……やめ……あぁぁっ……」 「ううっ! 俺も出す! 出る! おい守先生、ちゃんとその目で見とけよ」  中出しされると思いきや、そうではないとわかる想悟の言葉。  ひときわ動きを速め、一気に引き抜くと、既に守の精液にまみれた絵をさらに塗りたくるように大量の白濁を迸らせた。  守はただそれを、見ていることしかできなかった。  抜いてスッキリとした想悟は、いつも通り守に辛辣な言葉をかける。 「あーあ。後片付けしとけよ。ま、こんなザーメンだらけになっちまったし……もう捨てるしかねぇだろうけどな」 「…………」  守はなにも答えない。犯された疲労と絵が汚されたショックが重なり、放心してしまっているようだ。その場に身を丸めるようにして伏せ、ただただ嗚咽している。 「……ど……して……」  やがて、泣きじゃくる守が、ごく小さな声で呟いた。 「どうして……オレ……こんな目に遭うの……」  今までの守からは攻撃的な台詞など聞いたこともなかったのに、恨みがましい口ぶりだ。 「…………うふふ」  そして口元が吊り上がったかと思うと、 「ふふ、うふふふ、あははははははははは」  突然不気味に笑いだした。 「お、おい……守先生?」  さっきまでと明らかに様子の変わった守に、想悟もただならぬ気を感じた。思わず近寄って、その表情を確認しようと肩を揺する。  守はゆっくりと顔を上げ、どこか虚ろな目で想悟を見つめた。 「オレが悪いんですよね。昔からいじめられるのも、世良さんに裏切られるのも、霧島先生に犯されるのも、兄さんが失踪なんかするのも……全部、全っ部、オレが悪いせいなんですよね」 (やっぱりね知ってたよでも気付かないふりをしてたのだってそうでもしないとオレは本当にどうしようもない人間だってわかってしまう生きてる価値なんてなくなるもの)  これがあの守なのだろうか、と思うほどに、心の声が溢れ出してきて止まらない。まるで罪深い自身に課した呪いの言葉のようだ。  想悟はたまらず怨霊でも見たかのように手を引いてしまった。  いま読心していたのは一瞬であったはずなのに、精神的疲労が想悟の肉体を鉛のように重くした。もう一度読もうという気はとてもじゃないが起きなかった。  ゴクリと固唾を呑み込む。なんと声をかけていいものか──しかしここまで来てフォローしてやるというのもおかしな話だ。それに、根底では責任転嫁ばかりして逃げていた守が、やっと自分の非を認めたともとれる。 「霧島先生っ……教えてください……。オレ馬鹿だから、誰かの答えがないと生きていけない人間なんです……」 「……そう、か。ああそうだな。あんたが悪い……これでいいか」 「あぁっ……やっぱりぃ……」  期待された台詞を述べてやると、守はブルブルッと身を震わせ、恍惚とした表情を浮かべた。  彼の大切なものを奪ったことで、なにか彼の心に決定的な変化をもたらしてしまったのだろうか……。  調教なんて言葉、動物には使うことはあれど、高度な思考力のある人間へのそれはまさに洗脳に他ならない。そして、洗脳下にある人間の思考は、さらに厄介なものとなる可能性が高い。  これからの彼がいかに動き、言葉を発するのか、想悟と二人きりの場合ならともかく学園で問題行動を起こさないかどうか。  これは守にとって、そして想悟にとって果たして良いことだったのか。それとも。  頭の片隅で嫌な予感を感じながら、想悟は現状に似合わない自惚れのような顔をした守を冷ややかに見つめていた。

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