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一之瀬守編9-1 ※和姦

 放課後、教室から出た想悟は、同じく授業が終わり職員室へ戻る途中であった守に出くわした。  守は想悟を見た瞬間に顔を強張らせ、弱々しく俯いて、凌辱者に恐怖する。  ──それがいつもの守だが、今日の態度は全く異なるものだった。 「あっ……霧島先生だぁ……あの、今日はいつされるんですか?」  熱に浮かされたような守が、ほんのり頬を染めて吐息混じりにそんなことを呟いた。  どう考えても調教を意味している言葉だが──度重なる凌辱で少しは積極的になったのだろうか。  いや、だからと言ってそう簡単に全てを諦めるだろうか。守は自尊心こそ低いものの、羞恥心は人並みにあるはず。そしてそれらは捨てる方が勇気がいるものだ。  また熱でも出たのだろうかと彼の肌に触れてみるが、その当ては外れた。  想悟は訝しく小首を傾げた。やはり前回の凌辱から、何かがおかしい。  それは生徒達からもこのところ聞かれるようになっていたことだった。「守先生がずいぶんと明るくなった」とか、「楽しそうにしていることが多くなった」とか。  傍から聞けば良いことでもあったのかと思うくらいで済むが、今の守の私生活にそのような希望があるとは思えない。 「守先生。あの絵、どうした?」 「へ? あなたの言う通り、捨てましたよ?」 「せっかく頑張って描いたのにな。……今考えると、ちょっともったいなかったか」  そんな風にうそぶいてみせると、守は目を伏せた。 「そんなにショックなのかよ」 「……ショック、でしたよ。オレにとって作品は自分の子供みたいなものだったから……。でも、もういいんです」 「……どういうことだ」 「だってオレなんか最初っから才能ないですもん。みんな優しいから、お世辞で褒めてくれてたんです……世良さんも社交辞令だって言ってたじゃないですか。だからきっとそうなんです」 (ほんとはみんなオレのことなんて陰で笑ってたんだだっていつも言われてたよお前は下手だお前の絵なんて何の価値もないってでもそうだよねオレより上手くて頭もいい人なんて五万といるし教師も画家も無謀な夢だったんだ)  ……正直、世良の感想はともかく守の絵は素人目からしても上手い。だからこそその才能を嫉妬した者達に因縁をつけられたことも多かったのだろう。  やはり今の守は一転して自己否定感情ばかりが溢れている。何を言っても無駄といった空気だ。決して元気付けてやる気はないが、このまま鬱々といられても困るのだが……。 (絵も描けないオレなんて本当に何にもないやいっそのこといなくなっちゃう方がマシなのかも)  待て、その方向に進んでしまうのはまずい。想悟は思わず守の胸倉を掴んで詰め寄っていた。 「そんなの自分で決めつけるな。あんたは俺に従っていればいいって言っただろ。あんまり余計なこと考えて勝手な行動なんかしたら俺が許さないからな」  守が危なっかしいことを言うものだから、想悟の身は少し冷や汗が滲んだ。  仮に勝手に死なれでもしたら……この凌辱は失敗案件だ。  失敗したらその先は? また相手を変えればいいだけなどといった甘いことをクラブが許してくれるだろうか。共倒れになるようなことがあれば本末転倒である。  それに、いくらクラブの性奴隷として堕とすと言っても、想悟自身は彼を殺す気などない。自身の言動が誰かの命を左右する危険があるだなんて……考えたこともなかった。 「それに……兄貴のことだって知りたくないのかよ」 「ぁ……そ、それは……」 (そう……だよね……兄さんは、絶対オレがされてることに関与してる……。でももう知るのも知らないままでいるのも怖いよ……どうしよう、もやもやする……けど……) 「真実は知りたいだろ」 「…………」  わずかに迷うような間があり、守は小さくコクリと頷いた。  兄のことは資料でしか知らないが、その中から得た情報を、守への調教で彼が褒めるに値することをした時、こちらを愉しませてくれた時、餌付けのごとくやっていた。  そうすると、家族の存在は守も最後の一線なのか、たった一瞬でも瞳に希望が映るのだ。絶望の奈落へ蹴落として、その際に伸ばされた手をあえて自ら引っ張り上げてやって、また隙を見計っては地獄の淵に追い詰める。  飴と鞭……ううん、なるほど。不本意だが神嶽のやっていたことがちょっぴりでもわかった気がした。  木村勝の件が彼の中で大きな存在である以上は、ひとまずは放置しても大丈夫だ。そう自分を納得させて、その場を去ろうとする。  しかし、それを制したのは意外にも守だった。必死に腕を掴んで縋ってくる。 「ま、待ってください。先生……しないんですか?」 「……あ?」 「だから、あの、ち、調教を……」 「……はぁ。兄貴のことなら、今日は話す気はないぞ」 「そうじゃなくて……」  まるで恥じらう乙女のように、守は「したいんです……」と呟いた。  おおよそ彼に似つかわしくない言葉。思わず動揺が顔に出ていたかもしれない。そのくらいに隠せなかった。  だってそう言う彼の心は。 (すれば……きっと真実を教えてくれる……解放されるかもしれない……それに……それにっ、どうせ気持ちいいのことなんだから、損はないよね)  彼がどんな行動をとろうが解放する気はないけれど。あんなに嫌がっていた行為を受け止めて肯定しているだなんてありえない。何故……。  かと言って全てを諦めてしまったようでもないし、だとすれば深い思い込み……なのかもしれない。  初めから守が課せられることは罰ではなく理不尽なことでもない、守が望んでいること。要するに同意の上。  そこまで洗脳が進んでいたのだろうか? 守の大事なものを奪った影響はここまで凄まじいものなのか? 皆目見当がつかない。  ただ、断る理由は特にない。ゆっくり接したかったので、プライベートな空間に誘うことにした。

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