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一之瀬守編9-3 ※和姦

 一切の抵抗もなしに、いやむしろ待ってましたと言わんばかりの守が跨って来る。わざとかどうかは知らないが、最初は素股の刺激を愉しんでいた。  それに、後ろも自分の指で丹念に解している。どうやら家に帰っても本当に自慰をするような状態にさせてしまったか。 「はあぁっ……も、もう、入れても良いですかっ……」  切羽詰まった吐息。 「ああ。勝手に入れて勝手に動いてろ」  了承を得て、守は的確に、柔らかくなった小孔に勃起をズブズブ埋め込んでいった。 「んはァアッ……! 熱っ……お腹、いっぱいにオチンポ刺さってるぅ……。霧島先生とのセックスぅ……しゅごいの……もっとしたい……」  以前の守であれば恥ずかしくて死にそうな台詞だ。うっとりとして、自ら緩々腰を動かし始める。  想悟は寝そべって腕を頭の後ろに回し、高みの見物をすることにした。 「あんたのこんな惨めな姿、兄貴が見たらどう思うだろうな」 「言わないでっ……兄さんのことは、言っちゃ……駄目なんですぅっ……」 (今はセックスがしたいのっ……兄さんのことなんて……変なこと聞いたりでもしたら、どうなるかわからないもの)  兄の手がかりがなくなることを恐れつつも、独りよがりのセックス。これじゃまるで真逆の立場じゃないか。  父を失うことが怖くて余計なことは考えないようにしていた俺と、守。  近頃の守は、兄への興味が薄れているようにも感じる。それでは脅しの材料が減ってしまう。いや……もうこれほど素直に命令を聞くなら、良いのかもしれないが……。 「はぁっ……先生っ……先生えぇっ……」 「あんたがそんなにケツ穴セックス狂いの変態になるとは驚きだよ」 「だ、だってっ、先生が、教えてくださったんじゃないですかぁ……。知らないおじさんにもたくさん……あの時は怖かったけど、もう最近は、お尻が疼くんです……オレ変態さんだ……。初めからこういうこともしてたら、みんなに虐められなかったかなぁ……」 「いや、たぶんその場合、もっとエスカレートしてたと思うぞ」 「あれ……そうなんですか……うぅん……やっぱりオレ、馬鹿だなぁ……んくぅうんっ!」  彼が昔にどんな言動をとっていれば嫌われずに済んだかなんて知らないし、どうでもいいけど。その誰にも好かれようとする八方美人的なところが要因かもしれないとは思ったが。  上下運動だけでなく、時には腰をゆったり回しつつ、様子を見て良いところに亀頭をゴリゴリ押し付けている。そのたびにあられもない喘ぎを噴きこぼす守はもはや淫乱そのものであった。  だんだん抽送のスピードが速くなってきた。守ももう、限界が近いのだ。 「あぅっ、もう駄目……イク、イキますっ、イッちゃうぅぅ……っ!」  高らかに訴えた直後、守のそびえ立ったペニスは勢いよく溜めていた精子を放出させた。  想悟も低く唸って欲望を吐き出す。薄く開いた目で見上げた先の守は、それにも感じているのか唇を噛み締めて込み上げるものを堪えていた。  ああ、たぶんこれは、俺のことなんて一ミリも考えていない。自分だけが興奮し、気持ちが良ければいいんだ。  唐突なセックスに応じてくれる近しい人間が俺だっただけで、断っていればそれこそ世良なんかに頼んだのだろうか。どうしてお前みたいな奴が、そんなはしたないことができるようになったんだ。  いいや、そもそもこれでいい。これでいいはずなんだ。なのに。  わざわざこちらから顔色を伺わなくてはならない状況の守に、恐ろしげなものさえ感じてしまった。  射精したせいもあり、急速に気分が醒めていく。今夜はもう、しばらく一人になりたい。  互いに服を整えると、想悟は何も言わず守の腕を掴み玄関の外へ追いやり、素早くドアを閉めた。 「先生? 霧島先生?」 「うるさい……」 「先生ってば」 「出てけ!」  大声を出すと、さすがの守もビクッと肩を震わせて、普段の憂い顔をした。  守を追い出して、彼がやっとその場から居なくなったのを確認すると、想悟はドアに背をもたれた。  深くため息をつく。情事の余韻などない。身体は快楽を得ていたけど、精神はとても疲弊していた。  今後もあんな状態の守の相手をしろって言うのか? もういいだろ。いい加減にしてくれ。依存しないでくれ。困らせないでくれ。彼にしてきたことの因果応報にしても、こんなのってない。  ずるずるとしゃがみ込み、頭を抱える。どうすればいい。こんな時、あいつなら。神嶽なら──。  自ら考えたことに、ゾッとした。 「神嶽……なら……だって?」  どうして、こんな風に弱った時に会ったこともない男に頼ろうとする。  それも、クラブの連中から聞いている情報くらいしかない、俺から大事な人達を奪った、忌むべき存在。  そんな馬鹿としか言いようがないことを考えてしまった自身に猛烈に腹が立って床を殴る。 「クソッ! 何が神嶽だ! 何が……なに、が……」  けどそれは単なる、プライドの問題ではないのか。クラブは素人の俺が完璧な調教ができるとはまず思っていないだろう。あるいは失敗することだって考慮に入れないはずはない。  それでも野放しにしているというのは、一種のギャンブルなのでは。  俺さえも駒なのだ。守ではない、俺の言動で大金が動く。誰かが徳をして、誰かが損をする。  神嶽はプロフェッショナル。だが、俺もとっくのとうに悪魔に魂は売っている。  それならもっと、冷静になれ。感情を捨てろとまでは言わないが、少しでも雰囲気に左右されないようにするんだ。  俺は霧島想悟。短くも生きてきた一貫性というものはあるつもりだ。  例えば、そう……長いこと付き合ってきた読心能力、だとか。  神嶽はそれを使いこなしていたようだ。年齢やそれに伴う経験という側面では敵わなくても、きっとそこに伸び代がある。  ずっとこの力を呪ってきたが……天だってそうそう悪いものばかりを与えないはずだ。同じ力を持つくせに神嶽だけ何の苦悩もないなんて、あまりにもずるいではないか。  読心は絶対に俺を不幸にするものではない。今はそう、思うしかない。  もう一度、守と向き合う。今度は本気で。あくまで平静を保って。  煩悩を捨てるかのように、両頬を手でバチンと叩いた。

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