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一之瀬守編END-1

 ジリジリと太陽が激しく照り付ける、暑い日が続く。  だるい、きつい。馬鹿じゃねぇの。早く少しでも涼しい残暑になれ。若い想悟でも、そんな昨今の尋常ではない暑さには勝てない。  ほんの少しの移動でも汗だくになり、ほぼ夏バテしながら授業を行なっていた。  が、教師がそんな体調では上手いこといっていないかもしれないし、授業内容がいつもと変わらず頭に入っている生徒もいかほどか。想悟も学生時代はそうだった。気持ちはわからなくはない。  地下クラブの冷暖房完備の施設が今は快適に思えるほど、入り浸るようになった。  だって一つの場所にジムもプールもサウナもエステも、垢擦りもある。巨大スクリーンで贅沢に一人映画を観たり、慣れないなりにルールを教えてもらってギャンブルを楽しんだり、社交ダンスをしたり、娯楽施設だけならわりと良い。というか最高。  仕事が終わったらクラブに直帰して、守の凌辱を見ながら飯を食うことも増えた。時には酒を煽ることも。  これって、あれだけ軽蔑していた会員そのものではないか? 最初は自己嫌悪もしたが、生活の満足度が高まるほどに、だんだん気持ちは薄れてしまっていった。  悪趣味な研究などせずに完全な娯楽施設としてでも十分に資金を得ることができそうだ。  けど、それが副産物だと言うなら……やっぱりオーナーの人生の全ては、理解しがたい研究というものにある。そして自分一人だけでは切り盛りできないはずだから、多くのコネクションをつくって優秀な人材を雇えば効率は悪くないんだろう。  もし、もしもの話。俺がクラブの後継者として認められることになったとして? 何から何までを継げばいいんだ? 彼が生涯を捧げたおぞましい研究なんて、冗談じゃないしましてや知識もないし。  いろいろ考えすぎて、頬杖をついたら頭が痛くなってきた。オーナーが生前同じ仕草をしていたらしいと思い出し、慌ててやめた。  真夏の中、守は体調不良の日が増えた。それは教職を続けられないほどで、しばらくして、世良に退職願を提出して学園を去った。もちろんそれは守本人に書かせたものではなかったのだが。  元々、人付き合いが少なかった守を心配する声はあまり聞かれなかった。日が浅いからか、まだ失踪届も出されていない。  家族としては、家庭内から二人も息子が居なくなるなんて、例え気付いたとしても信じたくはないし、信じないだろう。  しかし、正直驚いたのは、新堂の態度だった。あれだけ衝突していたのに、守が辞めた途端、しばらく魂が抜けたようになっていた。  聞けば、「私が彼を追い詰めたのかもしれない」「私がもっと早く変化に気付いていれば」などと無意識にハラスメントをしてしまったかのようなことを言って自責していた。  大丈夫だよ、新堂先生。あなたは何も悪くない。まあ、ちょっと嫌味な上司役はやってくれたけど。そのうち、彼のような内気な若者には最初から教師は務まらなかったのだと納得する日が来るはずだ。  今宵のショーはとても特別な時間になる。そう思うと、身体の芯から来る火照りを抑えられず、事前にプールでたっぷり泳いだ。  地下だから当然日の目は見れないけれど、代わりにプロジェクションマッピングでハワイのビーチに居る気分にはなれる。いかにもサメが出そうであるのは映画の見過ぎだが、そういえばジャック達がいる場所の水槽にデカい奴が居たななどと思いのんびり過ごした。  そうしてブルーハワイのカクテルを飲んだのは、純粋に夏を愉しみながらも、これから起きることに対して少しくらい酒を入れて気を大きくしようと思ったからだ。  教職を辞めてからの守は、会員共相手の要求に従順に従い、毎日飽きるまで犯され続けていた。それも、以前と比べて本当に素直に。真面目に。彼の隷属の気持ちに嘘はなかった。  彼なりに何度も何度も考えた結果だろうが、奴隷への誓いの方法は、結局情けのない土下座だった。ただ、言葉であれこれ言われるよりは、よっぽど不動のものである気がして、想悟もそれを了承した。  完全に男共の性玩具となった守。しかし、それをも彼は受け止めている。  だからそろそろ頃合いだろうと思った。  世良に協力してもらい、守を犯す動物を連れて来てもらった。このクラブの奴隷を象徴する、赤い首輪に、赤いリード。そいつを生で見るのは初めてだった。  確かに目鼻立ちはところどころ似ているが……写真よりも、やつれ方が痛々しい。写真では無精髭も生えている姿があったが、さすがに今夜の為に剃ってきてもらったようだ。ボサボサだった髪もそれなりには整えられている。  奴隷には奴隷なりのドレスコードというやつだろうか? しかし、別人と言われればきっと納得してしまう。それほどの年数と場数がそいつを変えた。 「いやぁ、かれこれ三年か。こんな日が来るなんて、実に素晴らしい。僕も待った甲斐があったというものだよ、ねぇ、霧島先生」 「……俺も守も頑張ったんですよ。神嶽の奴みたいに……これが当然だと思わないでください」  ご尽力はありがたいですけど。と、白々しく世良に言った。  世良のことは今でもムカつくし許せない。  けれど、彼の協力がなければ今回の宴は成立しなかった。さすがVIP会員ともなる男。心が宇宙のように広いことで。世良は照れたように禿頭を掻いた。そんな上機嫌の様子は見なかったことにする。  守と奴隷を舞台に上げると、拍手と共にワッと感嘆の声がしてすぐさま広間が沸いた。  腹は立つが、やはり世良の言う通りだった。これまで四苦八苦しながらも守を調教してきて良かった。会員達の反応を前に、そんな高揚感にも包まれる。

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