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一之瀬守編END-4 ※近親相姦 ◆完結
「ま、も……」
ふと、勝が低く、しかし確かに人間の言葉と受け取れる声を発した。
「兄、さん……? 兄さんっ!?」
もしかして、自分のことを言われてか、守を思い出したのか? 心の奥底には、やはり兄としての、木村勝が存在していたのか?
守も期待を込めた目で彼を見やる。
「……ウォ、オオ……グルッ……ウウウッ……」
……そんなことも、なかったようだ。それは読心からも読み取れた。
ただ興奮からの唸り声を上げただけの“犬”である勝に、守は何の表情もつくることができなかった。
希望が瞬時に凍り付き、じわっと涙声になる。
「やだっ……そんなの、やだよ……どうして……思い出してよ、兄さん! 兄さあぁぁぁんっ……!」
守がどれだけ願っても、勝には一ミリたりとも響かない。
勝は勝なりに、奴隷になる以前の記憶を勇気を持って捨てたのだ。それは、実の弟である守の存在も捨てたということ。だから、勝が何の興味も示さないのは、当たり前なのだ。
しかしそんなことなど知る訳がない守は、無駄でもただ言葉で訴えかけることしかできなくて。
「ごっ……め……なさ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいすみませんすみませんごめんなさいすみませんごめんなさいすみまぜっ……ぇっ……ええっ……」
まるで読経のように謝罪を始めた守。涙声のせいで時折、詰まりつつある。
彼の表情を正面から見ようと髪を撫でながら見つめる。涙で濡れた顔はもうぐちゃぐちゃだった。
「『ごめんなさい』『すみません』なんて言葉、もう飽き飽きなんだ。俺はお前に謝られるようなことはしていない。俺が悪いことをわかっていて、でも俺の意思であんたを犯して来た。前も、今も、ずっと。ぶっちゃけ……兄貴のことも、今となってはどうでもいい」
やはり何かに頼らなければ──そんな風に目をあちこちにやる守。その表情は必死そのもので、歪んでいた。
「あぁっ……違う! オレが……悪いの! 全部オレが悪いんです! それを認めてもらえないとオレっ……オレは……あぁぁ……ァアッ!!」
守が髪を掻き毟りながら叫ぶ。
(情けない使えない何にもできない存在価値のないオレでなきゃ、今まで頑張ってきた甲斐がない……だから霧島先生達にされてきたことにも耐えてきたって言うのに……)
相反する感情が守を混乱させ、苦しめている。人は言動に理由をつけたがるもの。
だから守も、都合の良いように解釈して、自らを苛むことも表面では悦びつつ、きっと心の深層で泣きながら耐えていたんだ。
「お前は……何にも悪くないよ。ただ、木村勝の弟だった。俺や学園長の近くにいて、標的にされただけ……たったそれだけ」
「うそだ」
「本当だよ、守。お前がいなければたぶん俺は……別の人間をこうしていたと思う」
自分でも、不思議なくらいに落ち着いていて、優しい声音だった。彼でもわかるようにと、どこか教育者の面が出てしまったのかもしれない。
守は大声を上げて子供みたいに泣きじゃくり始めた。当然だ。運が悪かっただけでここまで心身の拷問を受けるだなんて。そんなことどんな人間だって耐えようがない。
それはお前もだな──勝にもふと目を向けた。
相変わらず取り乱す弟に何の興味も見せない濁った瞳。身体だけは悦楽を覚えてしまったせいで悲しくも律動を止められない。
そう遠くないうちに廃棄されることが決まっているだろうに、自身の未来も思考することができない。
「オレぇっ……やっぱり何もして……なかった……。なのに……いっぱいひどいことされるの……どうしてだろう……? 今はただこうやって……実の兄さんとセックスして、皆さんに見てもらうだけの……獣になって……変なの……変っ……」
全て受け止めた……とはまだ言い切れないが、世捨て人となったなりに深く考え込んでいる。
やがて守の最終的な答えが口から出た。
運命は……虚しくも兄と同じ結末を選んだ。
「はは……は」
つらすぎる現実に直面すると、人はつらいと言えなくなる。同様に、思えなくも。正反対の感情である笑いすらこみ上げてくるというもの。
「何が面白いんだ?」
「わ……かんない……もう……何もかも……わかんないっ……ははははは……あはははははは!!」
それがお前の答えだと言うのなら、俺も受け入れよう。
守も、想悟も、果ては会員達まで、クラブの誰もが笑っていた。それは狂気に他ならない。
想悟は会員らと共に地獄の近親相姦ショーを愉しみ続けた。
今この一時、表では霧島蔵之助が危篤だと知りもせず、知らされもせず。
ただただ、欲望に満ちた時間を過ごしていた。
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