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凪誠太郎編2-1
仕事が終わって、奴隷として調教することを決めた誠太郎を連れ出したのは、春から借りている想悟の部屋だった。
想悟が暮らしているのは、仕事場から近い1Kのデザイナーズマンションだ。お坊ちゃま育ちの想悟であるから、それでも人並みとはいかないのだが、少しは自分の力で生きていけるようにと、できるだけ庶民に近い生活を選んだ。実家に居た頃は専属のシェフが当たり前に作ってくれていた飯だって、今はほとんど惣菜か、簡単な自炊で済ませている。
と言っても、クラブを知ってしまったせいで、そんな悠々とした一人暮らしも一ヶ月ほどしか満喫できていないのだが。
誠太郎も、今日は両親共々、夜勤で家を留守にするという。連れ出すにはちょうどよい口実だった。
想悟の部屋であれば、クラブの監視も行き届きやすいと鷲尾も言っていた。もしかしてテレビを見て馬鹿笑いしたり、ひっそりと自慰をするところも見られていたのかと思うと薄ら寒くなるが、今となってはもう、その程度の羞恥心は慣れなくては負けだろう。
夕食の買い物にも付き合ってくれた誠太郎は、「栄養は摂らないと駄目だよ!」と言って、あれやこれやと進言してくれた。
いつもは添加物たっぷりの弁当や、カロリーを気にせず外食で済ませてしまうところ、惣菜といっても少しはヘルシーな魚の煮付けや温野菜などを選んで買い、二人して食べた。本当なら誠太郎も手料理を振る舞ってやりたいところだったらしいが、残念ながら彼は料理はできないという。
そうして一服しながら、誠太郎は適当にチャンネルを合わせたバラエティー番組を見ていた。
きっと誠太郎は家でもこうなのだろう、とは想悟もわかった。両親が仕事でいない間の寂しさを紛らわす為か、誠太郎はテレビを見るのが好きで、今も釘付けになっている。
時折、テレビと会話しているのか不規則に喋り声が聞こえてきはするものの、けらけらとした笑い声を聞きながら家事をしていると、まるで本当に子守をしているようだ、となんだか子供を持った親のような気分にさえなってくる。
こう見ると、誠太郎はちょっと幼稚なだけのやんちゃな男の子、という感じだった。とても同性に恋をして、好きだ好きだとしつこく絡んでくるような子には見えない。
洗い物を終えた想悟は、壁掛け時計を見やった。今は八時だ。誠太郎の両親も朝には帰ってくるだろうし、いくらなんでも泊まりはまずい。十時頃には帰してやるつもりだった。そうなると、あと二時間がクラブの言う性奴隷調教に使える時間となる。
「誠太郎」
「なーにー?」
名前を呼ぶと、誠太郎はテレビも消さずにすっくと立ちあがって小走りでこちらへやって来た。想悟の腰の辺りに手を回してぎゅっと抱き付いてくる。言動も含まれているが、主に身長差のせいで本当に親子みたいだ。
「んへへー。いつもよりせんせーと一緒だねー!」
「……本当にお前って、いつも幸せそうだな」
「うん! だって幸せだもん!」
(今日は夜もせんせーと一緒なんだよすごいねー! お父さんとお母さんいないのにぜんぜん寂しくないよ! すきすきすき、せんせーだいすき!)
また始まった好き好き攻撃に、想悟はうっかりため息が漏れてしまう。今の誠太郎の全ての行いは、これに尽きる。
うんざりしそうになりながらも、誠太郎に抱き付かれたまま想悟はリビングのソファーまで行くと腰を下ろす。誠太郎も隣に座ろうとしたが、
「駄目だ。ここに跪け」
そう言って命令し、下肢の間に誠太郎を座らせた。
はてと首を傾げる誠太郎に対し、想悟は手っ取り早く立場をわからせることを選んだのだった。
「誠太郎。もう一度確認するけどな、俺がお前の傍にいてやるのは、お前が奴隷になればの話だ」
「どれい? うん、なるよ?」
「だったら、お前は俺と対等だとは思うな。恋人なんかじゃない。お前は奴隷で、俺は主人だ」
「僕は奴隷でせんせーはご主人様」
「そうだ。それから、この関係のことも絶対に他人に言っちゃいけない」
「誰にも秘密!」
二人だけの秘密を共有したとして、誠太郎は想悟の想像とは異なり嬉しそうだ。性奴隷と言っても、その言葉の意味をあまり理解していないのかもしれない。
だがそれでもいい。誠太郎が「好き」と言い出したのだから、乗ってやるに越したことはない。
もしもこれから先の性奉仕を誠太郎が嫌がれば、その時点でこの関係を終え、別の人間を探せばいいだけの話である。
「……そうか。それなら、お前にはしてほしいことがあるんだ」
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