109 / 186

凪誠太郎編END-2 ※魔女裁判

 今宵のショーは誠太郎を筆頭に、想悟、鷲尾、名の知れぬスタッフ達が舞台に立った。  相変わらず、何も知らされていない誠太郎。しかし、今回こそは何も知らない方が良いとさえ思った。知ってしまえば、いくら誠太郎でも逃げ腰になるかもしれない。  まあそれでも良いのだけど。X字型の台に仰向けにされた誠太郎は、手首と足首を革の枷でギッチリと拘束されていた。  それだけで、普通は異常事態だとわかるだろうが、誠太郎はただひたすら、何が起こるのだろう? と、疑問に満ち溢れた顔でいる。 「誠太郎……。お前が誰にもよく感じて、それでも俺を好きだと言う気持ちが真実なのかどうか、今日はしっかり確かめることにするよ」 「へ……? そ、それって、どういう……?」  誠太郎の疑問には、会員達への説明の為に、演技がかった口調でハンドマイクを握った鷲尾が話し始めた。 「我々はこれまで、この奴隷の、想悟様への想いが誠であるか常に試して来ました。ですがそれももう終わりのようです。この際ハッキリしましょう。彼は本当に想悟様を愛しているのか? それともただの意地、まやかしであるのか? 公正な判断を致しましょう。古来より伝わる、実に公正なやり方でもって……ね。今宵はそれをご覧いただきます」  何が平等であるのか。誠太郎の意思など関係のない、代弁する者もいない。  ただこちらの求める台詞がその口から放たれるまで続く。現代の魔女裁判──それが行われようとしている。  ただ、役割は大まかに決まっている。鷲尾やスタッフ達は審問官側の人間なのだろう。こっちはこっちで、本気で誠太郎の有罪を固めに来る。弁護人はいない。  もはや傍聴席と呼んでも良いだろうか、客席は彼がどんな目に遭うのかを見る為だけに来た輩でいっぱいだ。世紀の大殺人鬼でも、こうして傍聴を求める人間は多い。ある種それと変わらないか。  そして、肝心の誠太郎が罪であるか否か、それを最終的に決めるのは想悟だ。何の知識も権限もないのにいきなり裁判長兼審問官を任されてしまったようなものだ。  拷問器具は、実際の魔女裁判で使用されたものもあるとか……ないとか。ずいぶん古めかしいものは、見るからに数多の血を吸っていそうであった。  舐めてもらっては困る。俺は世界史教師だ。そういった血塗られた暗黒時代もあったのは事実だと、数々の値さえ付けられた証拠品、著名な学者の論文、地元民からの証言などでとっくにわかっていることだ。  少しずつ身体を伸ばしていって最期には八つ裂きにする拷問台、鋭利な刃がつき、徐々に下がっていずれ腹の中身をぶち撒ける振り子や、鉄の処女、頭蓋骨粉砕機。  苦悩の梨というのは、感傷的な名前によらず非常に残虐だ。閉じた状態の梨によく似たそれを犠牲者の口や性器に突っ込み、ネジを回すとその梨が開いていき、同時に内部の突起がせり出してくる。まあ、つまりはそんなことをされれば、口と性器は一発で使い物にならなくなる。これを出されると、男女ともそれはそれは泣き喚いて慈悲を乞うたと言う。  親指締め機なんかは、それらと比べればそこまで大したことはない、拷問の初めにやるものだった。  今ではペンチがあれば十分だが、そうした仰々しいものを目にした方が、誠太郎の恐怖は倍増するだろう。  まずスタッフの一人がいきなり誠太郎の頬を容赦のない拳でぶん殴った。もちろん、誠太郎は何もしていないのにそのような「罰」を与えられることに対して、混乱するしかない。 (いっ、痛ぁっ……!? 何これ……な、なんで僕……今日は、痛いこといっぱいされる日なの……?)  誠太郎の読みは正しい。ただしその痛いことというのは、彼の想像の範疇を超えている。すぐには終わらない。  次に、その別のスタッフが工具用のペンチを持ち出してきた。もっと大きなサイズのものであれば簡単に剥がれるが、それではじわじわと痛みを与えられない。 「ひッぐ……ぁ……な、に……ごめんなさ……何するんですか……あ、あぁっ」  爪先を挟む動きに、さすがの誠太郎も表情が強張り、眼鏡の奥の瞳が見開かれる。 「悪魔の使いは何をするかわからない。まず凶暴な爪を取り除いてしまわねばね」  淡々と鷲尾が言った。さしずめ小山羊だろうか。山羊は邪神とも生贄としても扱われることがある。 「あっ、悪魔……? ちが……僕、悪魔なんかじゃない!」 「あれだけ皆様に色を売っておいて、今さら否定するとは嘘つきにもほどがありますね。舌も引っこ抜いてしまいましょうか」  すかさず反論しても、誠太郎の色欲はそういう意味では並大抵のものではない。確かに悪魔的な魅力かもしれない。  初めて誠太郎の口が「いや」と動いた気がした。しかしこれらが全て想悟の命令では言えない。絶対にだ。

ともだちにシェアしよう!