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凪誠太郎編END-5 ※魔女裁判 ◆完結

 さて、どんなことを考えているんだ? 想悟は心を読む為神経を集中させる。 (────)  ──誠太郎の声が、聞こえ、ない? なんだ? あれだけうるさかったのに、ぴったり止まった? これはどういうことだ?  予想外の反応に、想悟は驚きを隠せず、何度も精神を研ぎ澄ませて読みたいと願った。だが、何一つ。雑音すらない。彼の心は静寂に満ちていた。 「せんせー……」  ようやく言葉を紡ぎだした誠太郎は……黒目がちな可愛らしい瞳から、大粒の涙を一筋、溢れさせていた。 「夢じゃないよね……嬉しい……。僕を世界一幸せな男にしてくれて……ありがとう……ありがとう、ございますっ……」  今までの子供っぽい喋り方はどこへ行ってしまったのだろう。甘える時ののんびりとした口調、我が儘を言う時の弾丸のように相手を追い詰める口調、どちらとも違う。実に冷静で大人びている。  今の誠太郎はまるで……。 (先生、僕も愛してる。ずっと先生の傍にいたい。このまま時間が止まっちゃえば良いのに)  ……まるで、歳相応の男子生徒だ。これが本来の凪誠太郎という人間なのだろうか?  そうなのだとすれば……きっと彼は成長から逃げることをやめたのだ……。皆からちやほやされて甘やかされる為じゃない、想悟だけの為。  世の中の酸いも甘いも知って、その身で経験して、そうして徐々に大人になっていくことを、ようやく決意したんだ。 「……強くなったな、誠太郎」 「うん……全部先生のおかげ。痛いことも怖いことも嫌なことも乗り越えて先生の為に僕の人生捧げるんだって決めたの」  その台詞を聞いた瞬間、想悟は誠太郎を自然と抱き締めていた。「苦しい」と小さく言われるほどに、きつく激しく。  なんて素晴らしい奴隷だ。こんなにも自分のことを想ってくれるなんて……ここまで来てしまったらもう認めるしかないじゃないか。誠太郎が、想悟へ嘘偽りのない無償の愛情を持っていることを。  そんな人物はこの世に父以外存在しないと思っていた。そして誠太郎が当初とは比べ物にならないほどの成長を遂げてくれた。どれも素直に嬉しくてたまらなかった。  だがあくまで想悟は主人で、誠太郎は奴隷だ。恋人にはなれない。  そもそも想悟は、“奴隷として”素晴らしい覚悟だと思っただけで、人間としては彼のことを考えていもいなかった。  だってそうだろ? 「想い人の為」と言いながら他人と嬉々としてまぐわうようなビッチを恋人にするなんてそれこそどうかしてる。  これだけの所業を働いておいて、一途で心の清い人間……いや、何でも自分の思い通りになる者を探し求めるような真似をしていた俺はとても醜い奴だと思う。  最初からそんな自分を認めれば良かった。誠太郎のように頑固な部分が邪魔をしていた。 「俺に人生を捧げてくれるなら、当然それはクラブに人生を捧げるってことにもなるよな」 「うん」 「本当にできるか?」 「できるよ。……ううん、絶対やり遂げてみせる。だから見ててね、先生」 「……そうか。そこまで言うなら、見届けるよ」  年齢の順番としては想悟の方が先ということになるけれど、あるいは誠太郎の方が先かもしれない。そればっかりは人生何が起こるかわからないから。  でも、俺もその時が来るまでは頑張って生きようと思う。  だから誠太郎、お前も頑張れよ。  ──クラブの性奴隷として。  誠太郎の身体が酷く傷付けられたことを期に、誠太郎はこの傷を癒し、元気になった頃また不特定多数の相手をする為、医療棟に運ばれていった。  すると、やけに大袈裟な拍手をしながら鷲尾が舞台袖から現れた。先の二人の会話も聞いていたんだろう。 「想悟様。本当に……本当に、よくぞここまで成長なさって」  まるで幼少期から顔馴染みの親戚のような物言いだ。  近付いてきた鷲尾が耳打ちしてきた。 「……ますますオーナーに似て、頭もおかしくなられて。あなたのような化け物が継いでくだされば、クラブも安泰ですよ」 「……そうか」  鷲尾の嫌味には乗らなかった。だが、それがかえって良かったようだ。鷲尾は「よく堪えた」と言わんばかりに微笑んでくる。  それが本心なのかどうかは、読んでも仕方がないのでやめた。けれど、全くの嘘ではないと思う。  鷲尾にとって、想悟は明らかにこのクラブには適任ではない。神などでもない。「頭のおかしい老人の血を引いた化け物」……酷い言われようだ。  だが、奴隷調教を見事やり遂げた。それは“クラブにとって”善行である。善行をした者には、それ相応の何がを与えられても罰は当たらない。 「これから俺はどうしようか……そうだ、とにかく父さんを解放してもらおうか」 「ああ。霧島蔵之助ですか」  鷲尾が真顔で呟いた。  一人の少年をスケープゴートにしてまで守りたかった霧島蔵之助は、つい数時間前に既に死亡していた。

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