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財前和真編1-1

 思えば、和真を選んだのは自然な選択だったのかもしれない。  自分の担当するクラスの可愛い生徒。甘いマスクとは裏腹に、それはそれは目立つ問題児。立場もわからないで、調子付いている生意気なガキ。  想悟は和真のことをいつかギャフンと言わせたいと考えていた。そう、許されるならめちゃくちゃに犯して壊してやりたいとも……。  不本意ながらも、想悟は自分が本当は何を考えていたか気付いてしまった。  あのクラブを知らなければ、あんな目に遭わなければ、この衝動をずっと胸の奥に秘めておかねばならなかったのかと思うと、きっといつか壊れてしまったのではないかとすら思う。  これが己の血に流れる運命であるかは、正直なところはわからない。けれどこのどす黒い欲望を持て余していることは本心だった。  クラブのショーを見ていても、どうにも満たされないのは何故であるか、それはあれがもうクラブに染まった身の者しかいなかったからだった。  汚れのない身と心を持った人間を、己が力で組み敷いて犯す。一切の反抗ができないように恐怖させ、隷属させる。そう考えただけで興奮してたまらなかった。  脅迫されたから、ではない。やりたくてやる。それだけだ。  想悟は、和真を「例の件で」と言って終業後の学園へ呼び出した。秘密の個人授業への呼び出しである。  万引きをし、それを危ういところで助けてくれた担任教師の言うことを、和真はいつになく素直に従った。  しかし、滅多に来ることのない夜の学園というものはなんだかそわそわするようで、そういうところはやはり少年らしい部分が垣間見える。  和真の属する二年D組の教室だけが、真っ暗な校舎の中にぽつんと電気が点いていた。  ひょっこり顔を出した和真に、待ち構えていた想悟は彼のよく知る担任教師の仮面を被り、笑顔で手を振った。 「悪いな財前、こんな時間に呼び出して」 「いや別に。どうせ親父もお袋も今日は帰って来ないしさ」 「そうか。それはちょうどいいな」 「ちょうどいい……? で、用件は? メールで言えないことって、やっぱり、あれのこと……なんだよな」  和真の声のトーンが下がる。他に誰もいないことはわかっているが、念には念を入れて、というような感じだ。  あの時は想悟に助けてもらいはしたが、その後のことはやはり和真にとっても不安である。  やはり誰かにばれてしまったのだろうか、想悟も庇いきれなくなってしまったのかと、悪い想像が募っていく。 「これ、その場で撮ったものにしては、よく撮れてると思わないか」  想悟が自分の携帯を取り出した。操作して再生すると、その液晶画面の中には、和真が万引きをするその瞬間が鮮明に映っている。  後から見てみれば、隠れながらではあったものの、和真の顔と彼が何をしているかまではっきりと映っていたので、鷲尾にも良い脅迫材料を集めたではないかと思わぬところで褒められてしまった。  映像を見た和真の顔が強張る。 「え……? ちょっ……それって……いつの間に撮ってたんだよ……」  己の犯罪行為を改めて客観的に見て、和真は顔を背けた。何故あんなことをしてしまったのだろうという罪悪感と後悔が押し寄せる。  それに加えて、決定的瞬間をその場に居合わせた担任に撮られていた。両親に口を酸っぱくしてパパラッチには気を付けろと言われていたにも関わらず、冷静さを失っていたせいで配慮が欠けていたのだった。  和真の狼狽ぶりを見て、想悟は口元が緩んでくる。動揺する和真が面白くて、状況に合わないへらへらとした笑みが浮かぶ。 「なあ、この映像、ネットやマスコミにばら撒いてやったらどうなるかな」 「はぁ!?」  和真が叫ぶようにして言った。 「なんだよそれっ! 意味わかんねぇ! も、もしかして、俺を脅したくて撮って……ああっ、それであの時、尾行でもしてたのか!?」 「ま、だいたいはそれで合ってる。これをばらされたくなかったら、俺の命令を聞いてほしいんだ」  和真の顔がカーッと血が上っていき、みるみるうちに赤くなっていく。  まさか想悟がこのような卑怯な手段をとって人を従わせるような人間だとは思わなかった。こんな下衆男に、誰にも言ったことのない弱みを見せてしまったことを悔いた。そんな表情だ。

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