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財前和真編2-3 ※無理やり、初めて

 入り口こそあのような凶行だったけれど、ずっと誰かにこうしたかった。  嫌がる男を組み敷いて、無理やり犯してみたかった。  必死に守ろうとしている霧島蔵之助という偉大な男の足元にも及ばない屑で、人の道を外れた人外の血を引いた鬼畜だった。  そんな自分が霧島の姓を名乗っているだなんて、実に恥ずかしくて、愚かしくて、だが──誇らしい。  この加虐にまみれた衝動は己に流れる血のせいなのか、時折息の詰まるような環境にいたせいかどうかは今はどうだっていい。  初めて自分が自分らしいことをしている、と何か納得できる部分がある。ならそれだけで十分ではないか。  どうあがいてもこの行為は犯罪だ。しかしそれをやり遂げなければいけないというのなら、他に道はない。  目の前の和真を滅茶苦茶にしてやりながら、神嶽という亡霊を追いかけることで、この憎んで封じてきた能力をもきっと今よりもうまく使えるようになってやる。  そしていずれはあのクラブの忌々しい連中さえもひれ伏させてやる。  クラブも、学園も、全て我が物にしてやる。和真はその通過点に過ぎない。  醜い感情に身も心も支配されそうになった時、想悟の中にごく小さな、諦めのような声が聞こえてきた。 (でも……こんなに酷く犯されるのは、俺が悪い奴だって思われてるから……。あはっ……俺、ちゃんと悪い子演じられてるんだ……)  ────演じる……?  ぼそりと聞こえた和真の胸の内が、なにか引っかかった。 「ま、待っ、て、くれよぉおっ! やめ……うごっ……か、すなぁっ……! はぁ……はあぁ……あんたっ……本当に、なんでこんなこと、する必要がっ……うぐ、ぐぐぅうう……!」  和真が頭を振り乱すたび、大粒の涙がこぼれ落ちる。本気で痛がり、抵抗している。  必死に苦痛を堪えようとしてはいるようだが、どうしても身体に出るこの反応は嘘じゃない。  だが、やはり和真は普段から本来の自分とは別の人格を演じているのだろうか?  想悟の前で泣き、親の気を引きたかったと吐露したあの健気な少年こそ本当の和真なのか。  このような暴虐の生贄になっている今、そちらの人格で惨めに泣き叫び、許しを乞うてもおかしくないというのに、なぜこうして強がってみせるのだろうか。  ──心の綺麗な人が好きだった。  他人の悪口なんて言わない真っすぐで気丈な人。でもそんな人間は少なくともこれまで、父以外に会ったことはない。  所詮自分勝手な偽善者ばかりだ。世の人間全員が醜く思えた。  なのに和真はどうして本心を出さない。どうしてそうやって嘘ばかりつくのか。  裏が表? 表が裏? 彼のなにが本当なのか、ちっともわからない。  そんな和真に、想悟は無性に苛ついた。 「くそっ……くそ、くそっ、クソがっ!」  湧き起こった苛立ちの全てを和真にぶつけるように腰を振り続ける。 「ひぎっ! ぎひぃっ! ぐぅあああああッ!」  もう和真が何を叫んでいるのかもわからない。  ただただ、自身の嗜虐と射精の欲求に身を任せて彼の肛内を掘り抜いていく。  つらそうな和真に一切の同情を見せずに、力強く腰を打ち付けて抉っていく。 「あがっ……はうぅぐ……も、も、う……」  ストロークが速くなるにつれて、和真の悲鳴は小さく、掠れがちになるようになっていった。  悲痛な叫び声も、今の想悟には全て興奮材料にしかならなかった。 「──ぐううっ!」  低く呻いたその瞬間が、快感のピークであった。  今の自分の力では、まだ彼の心の奥底を推し測ることはできないのだろうか……。  和真の中でだくだくと大量の熱を放出しながら、興奮も何もかも、徐々に冷めていった。  萎んだ逸物が和真の中から抜けていき、後を追うように中出しした白濁がドロリと溢れ落ちてくる。  想悟は冷ややかな目で組み敷いていた教え子を見下ろした。担任教師に凌辱され尽くした和真は、わずかに震えながら嗚咽している。  そこにはプライドも何もなく、突如降りかかった災難を悔い、悲しんで、幼子のように泣いている。 「…………ふん」  和真がその心をひた隠しにするつもりだというのなら、こちらだって。  和真の不安定な心をこじ開け、弱い部分を暴いてやる。そしてその身を淫らに変え、霧島想悟という男に隷属する哀れな肉奴隷とさせる。  自身の良いように事を運ばせる為には、きっとそれしかないのだ。  今日、放課後までに見た自信満々の和真とは、全てが違って見える光景。  あるいは最初からこうだったのかもしれない。  想悟が今まで見てきたものはかりそめの姿。傷付くことが怖くて、ただ目を背けていただけ。  これからの想悟を取り巻くのは、とても残酷で、甘美な────現実だ。

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