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財前和真編8-1 ※輪姦
「え……?」
既に日課と成り果てた呼び出しに応じた和真は、自らの属する教室で担任教師の命令を聞いて怪訝な声を出した。
「聞こえなかったか? 今日はその身体を使って直に金稼ぎをしろって言ったんだ。客はもう学園内に集めてある」
「なに言い出すかと思えば……本当にいつもいつも、なんてことを考えるんだよあんた……」
(俺の身体を好き勝手にするばかりか、金づるにまでする気か……? 人をただ働きさせてあのいかがわしい施設の資金を得るなんて、見下してるにもほどがあるっ)
闇の住人達と巣窟を知ったばかりか、自らがその資金源にされる。まずくなったら、きっとトカゲの尻尾切りのようにされることは目に見えている。
和真にとっては眩暈がしそうな提案だ。
想悟もこうして夜の学園を使えるのは何を隠そう世良の協力があるからで、あまり本位ではないが。
「教室でヤるのが恥ずかしいのか? もうとっくにションベンもウンコもしてるくせに、今さらだな」
「うるさい言うなっ!!」
それらのことは和真にとって、思い出したくもないほど恥ずかしい出来事だ。
条件反射で怒りはするが、やがて諦めたように肩を落とした。
「……わかったよ……。お、俺が……この身体で、金を稼げば……今日は終わりなんだな」
「そうだ。ノルマは一万円だ」
「い、一万……だって?」
「安すぎると思うか?」
「そりゃ、人の価値を金で決めるなんて馬鹿げてると思うけど……でも、こ、この俺が、たった一万なんて……。ありえない! どんな計算したらそうなるんだよっ!?」
ギャラの話になった途端、和真は怒りというより、驚きの表情でこちらを見た。
普段から多方面からちやほやされている彼は、服も小物もスキンケア用品も、全てブランド品を与えられている。
両親の問題はともかく家庭に富がある以上はそれが当然で、なおかつ似合ってしまう和真。
そんな彼が一時的とはいえ紙幣一枚の価値となってしまうなんて、闇オークションや地下の実験棟にいた奴隷達より立場が低そうだ。
「それはそうかもしれないが、いくら両親に知名度があっても新人のギャラは安いもんだぞ。そんな気持ちで芸能界やってけると思うのか?」
「う…………」
「……じゃあ、五万に引き上げるか。……それでも不服そうだな」
「…………」
「心配しなくても、お前ならすぐに稼げる。一度につきお前が想像する程度の賃金が貰えれば……の話だけどな」
かなり含みのある語調で言った。
和真は不安げにしつつも、とにかく今はまた凌辱の時間が早く過ぎることを祈るしかない。
時間になると、世良が案内したのかやはりあの仮面をつけた会員達が、ぞろぞろと集まってきた。
学生時代ぶりか、もうせいぜい我が子や孫の学校行事にしか来ることのないであろう教室を感慨深そうに眺めていた。
あからさまな情欲に満ちた笑みを向けられ、和真は顔が引きつるのを抑えられないながらも、彼らを一瞥する。
(……前と同じ奴は……居なさそう?)
和真がよく目を凝らして観察する限り、仮面の間から見える顔のパーツのわずかな違いや、背格好といい、前回と被っている者は一人としていなかった。
今回は希望者の中からある条件を満たす者が選ばれているが、高嶺の花のような和真が相手ならば倍率は高い。
それもクラブの調教過程に直接関与できるのは、そうそう機会もないらしい。そんな和真本人を前にして、皆、高揚を隠せない。
想悟に肩を叩かれ、和真は一歩前に出た。
「えと……み……皆様……」
小さく息を吐いて、想悟に命令された口上を述べる。
「き、今日は……俺がいつも授業を受けている、この学園で……ご奉仕……させて、いただきます……。み、皆様のご期待にお応えできるよう……一生懸命、頑張ります……」
「ほう……ずいぶん素直になってきたねぇ」
「肝心の身体の方はどうなっているかな」
会員を恨めしそうに睨みつつ、目を伏せる。
「……はい。存分に……その、ご堪能……ください……」
そこで、想悟はちょうど和真の顔や全身が映る位置にカメラをセットした。
暗視カメラでは行為がよく見えない為、世良の協力でこの教室だけ電気を点けさせてもらっていて、何も知らない警備員のシフトは今日だけは無しだ。
「よし……なかなかいい感じだ。このまま録画するぞ」
「かっ、カメラッ!?」
和真はやはり自分の姿を保存するものに即座に反応した。
「カメラはやめろよ! あ……やめ、て……ください……」
「無理無理。もう回ってるし。本番始まってるぞ」
「ぅ、ぐッ……!」
もう回ってしまっていると聞いては、和真は小さな唸り声を上げることしかできない。
不本意ながらも、以前にも自身の恥ずかしい姿を捉えた写真やビデオは目にしている。
今回も、そうするつもりなのだとすぐにわかる。
(う……で、でも、こいつらが俺のことつまらないって思わせることができたら、前よりはマシになるかも……)
会員の興味を薄れさせることは、確かに有効かもしれない。だが、もしもそんなことがあれば、和真は存在ごと消される可能性がある。
そうとも知らない和真は、粛々と耐えるつもりなのか、眉間にたっぷりと皺を寄せて、顔を背けた。
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