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財前和真編8-5 ※輪姦
(助けて)
「…………?」
無論最初は、この残酷な輪姦劇に和真が音を上げたのかと思った。
しかし次に続いた言葉に想悟は驚愕を禁じ得なかった。
(和真、助けて、和真)
心の中で、呪文のように自らの名前を読んでいる。それに何の理由があるのかもわからなかった。
自分を鼓舞するような声音でもなかった。
まるで、他人に悲痛に救いを求めているような……正にそれだ。
でもだとすれば、和真の言う「助けて」は、和真自身に救いを求めていると言う訳になる。
不思議でたまらないが、もし……もしもだ……やはり和真の中に違う人格が存在しているのなら、彼の口にする「和真」という人間はこの世の神秘そのものかもしれない。
(俺なんてもう要らないから。代わってやるから。出てきてくれよ。なんで……なんでそんな意地悪するんだよ)
自らが傷付きすぎた以上、別人格の和真と変わりたい。
だが、その問題の彼は、おおよそ和真が支配できるものではない気がする。主従関係は、きっと別人格の方が上なのだ。
涙ぐんだ和真がふと、教室の天井を見上げた。
何か、いる……?
和真が空虚な目で見つめる視線の先に顔を向けても、そこには天井の染みがあるだけだ。
確かにそれは、見ようによっては人の顔に見えたり、不気味な形をしているようにも考えられるが……和真はそんな風に天を仰いでいる訳ではない。
まるで頭上から自分を見下ろしているかのようだ。
心霊現象? まさか。
超常現象なんて読心だけにしておいてくれ。これはさしずめもう一人の和真が自分を達観的に見ているだけ。
だがそれにしても、和真は内面にしか存在しないその“何か”について、ずいぶんと感心深いようだった。弱れば明け渡そうともした。
もし明け渡してしまったら、どうなるのだろう? 少なくとも想悟の知る和真ではなくなることは確実だ。
そうなれば、また一から別人を躾るくらいの気概でいかねばならないのか。
和真の心は初めに思った時よりもずっと繊細で、とても危うくて、だから扱いにはかねがね困っている。
「もっ、や、だぁ……死ぬ……こんなの、続けられたらっ、死んじまう、からぁっ……」
息は絶え絶え、自慢の美貌に相応しい親しみすい声も枯れ、和真は心身のつらさを切実に訴える。
死ぬ、か。死んだらどうなる? そもそも彼の死とは、精神か? 肉体か? 本気で死にそうになったら、さすがに内なる何かが代わってくれるのか? そんな都合の良い話があるものだろうか。
「死ぬほど苦しいかもしれないが、同じくらいに気持ち良くしてあげるからねぇ、和真くん」
そう、それだ。殺すつもりはない。だから会員の言葉に頷いた。
人は精神が落ち込んだ時こそ、普段では想像もつかないような言動をとりがちだ。
それが快楽であれ、恐怖であれ、彼の身も心も着々と己の手に染め上げていければ良いと思う。
想悟もよこしまな気持ちは人並み以上にあれど、心を偽るほどなんて、どれだけつらいんだろうな。
ふと生じた疑問は、全力で追いかけてもあとほんの少しで届きそうで届かない……そんな彼の心への焦りや、あるいは不安……なのかもしれない。
数時間が経って、会員達は上機嫌のうちにそれぞれ帰路に着いていった。
想悟は拘束を解いてやりながら声を掛ける。
「和真」
「…………」
「和真。終わったぞ。どれだけ集まった」
「……み、見れば、わかんだろ……。このザマだ……あんたが初めに提示した額にも到底及ばない……」
グロッキー状態の和真は今にも泣きそうに報告した。
本来の和真の魅力ならとっくに札束でも入っていそうだった器の中には、千円分の硬貨しかなかった。
「……こ、こんなの、無理に決まってるだろっ……。あんたの言うことはいつも無理難題ばかりだけど、今回ばかりは……度が過ぎてる……!」
想悟はわざとらしくため息を吐いてみせた。
「誰が一晩で集めろって言ったよ?」
「えっ……」
「足りない分は、これから毎夜クラブに招待するだけだ。きちんと稼げるまで待ってやる」
「……あんた、本気でっ……!?」
「ああ。残りはあと……四万九千円だな」
(む、無理、無理だっ、こいつは意地でも実行させる……! きっとそれが達成される頃には、俺の身体壊れる……っ!)
「……万で……いい……」
「なんだ?」
「い……一万で……いい……俺の価値は……一万円分……です……っ」
「今のお前じゃ一万でも高いと思うぞ」
「…………っ、く、そぉっ……」
屈辱に悶える姿をたっぷり堪能してから、和真の身に触れる。
しかし次の瞬間、強い電気ショックを浴びたかのような衝撃が、想悟を思い切り床へと引き倒した。
「痛ってぇっ……! なっ……なん、だ……今の……?」
身なりを整えて想悟を見下ろす和真は、先の彼とは明らかな別人と思えるほど、表情は氷のように消えていた。
どことなく同情的な嘲笑。さらにドスの効いた低い声で、
「これ以上和真を傷付けると……あんた狂うぞ」
そう意味深な言葉を言い残して去ったのだった。
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