146 / 186

財前和真編9-4 ※女装、野外

「はっ……こんなっ、女みたいな格好で抱かれて、今どんな気分だ?」  意地悪のつもりで聞いたのに、和真は息を絶え絶えとさせながら、 「はぁはぁっ……俺……誰が来るかもわからない外でオナニーして……きったねートイレで犯されて……でもすっげー興奮してる……身体熱くて変になりそうだよ……なんでだろう、なあ、想悟……?」  和真が縋るように目を向けてくる。こちらに質問ときたか。  下手なことを言って萎えさせてしまうのも良くない。慎重に言葉を選ぶ。 「それは……。お前が変わったからじゃないか、和真? 皆がよく知る俳優夫婦の息子としてのお前じゃなく、財前和真、本来のお前に」 「…………そっか」 (そうか)  ──初めて、心身がシンクロした……?  N極とS極がガッチリとくっ付く磁石のように、鮮明に、そして容易に和真の心を読むことが可能になっていた。  やっぱりそうだ。この力は受け入れればそれだけ応えてくれる。  そして聞こえたものが仮に自分にとって不利益なものでも、今度は黙って傷付いているだけより、逆手にとって利用してやればいい。  こんな簡単なことに気が付けなかった……いや、気付かない振りをしていたなんて。  今までどれだけ人生を無駄にしてきたのか。その無駄があったからこそ、辿り着けたのかもしれないが。  ただ、和真も自分なりに噛み砕けたことがあるらしい。どこか安心したように不貞腐れた笑みを吐いた。 「俺……変わったのか……そうか……そうだよな……。もう戻れないところまで変わってるんだよな……俺っ、頭ん中演技しかないバカだから……なんでそんな当たり前のこと、今まで気付かなっ……ふっ、うぅ……」  泣いている。大粒の涙が和真の頬を伝って濡らしている。  それは嗚咽となって公衆便所内に悲痛な声が反響した。  どれだけ淫らな姿をさらしても、それが自分の一部分であるとは絶対に認めたくはなかったのだ。  想悟が加虐思想を隠して生きてきたように、彼も。  こんな自分は自分じゃないと受け入れられずに生きていた。  誰にでも愛されるよう、人の顔色ばかり伺って愛嬌を振りまいていた。 「それでいいんだと思う。自分の知らない、知りたくない部分なんて、これから成長するにつれてもっと出てくるはずだ」 「…………」  和真は黙りこくってしまった。  何を考えているんだろう。何を悩んでいるんだろう。何が言いたいんだろう。  それらの理由を知りたくて背中越しにギュッと彼を抱き締めた。それでも、和真からは何も聞こえてこなかった。  読心が効いていない訳ではなさそうだが、もしそうならば、和真が見かけほど考えていないということだ。  これだけやったんだから、いい加減に降伏したのか。  思考できないほどに支離滅裂な気持ちなのか。  わからない。  だが、和真がその気なら乗ってやるに越したことはない。  和真は興奮の為か皮膚もさながら腸内はとても温かくて、緩い動きをするだけでもとろけそうになる。 「はっ……は、すっ、げ……お前ん中、マジで熱い……くっ……」  全身の穴という穴から汗が玉のように噴き出し、Tシャツにまとわり付き、染みをつくる。  和真は声を抑えることができなくなって、激しい抽送運動をすると呼応するように断続的に喘いだ。  そのくらいに野性的なセックスだった。 「うぁっ……は、もっ、持たな、い……駄目っ、あぁぁああっ、イクッ、イクイクイクぅううッ!!」 「う、ん……ああ、お前も、たっぷりぶち撒けちまえ……」  捻じ切らんばかりの締め付けは、想悟も耐えられなかった。低く唸り声を上げながら全てを和真の中に吐精した。  その熱を感じるたびに、和真もトコロテン状態で精を垂れ流す。  和真の括約筋はまるで精子を一滴残さず搾り取るかのように官能的だった。  今夜の和真は、淫乱そのものだった。  目の前で熱を解放したばかりの和真を見て、冷静さが戻ってくる思考でそう思う。  別人格とやらも、出て来なかった。現実の言葉と心が一致していた。  だから嘘ではなく、本心で感じていて、自ら淫らな行為に倒錯しているとわかった。  でも。  でも──どうしたのだろうか、この胸につかえたものは。  無意識に出たため息は、夏の夜の暑さと共に闇の中に吸い込まれていった。

ともだちにシェアしよう!