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財前和真編BAD-2 ※IF、二重人格

「さっきはどうしてあんな生意気な口を聞いたんだ」 「え……?」  和真は見るからに狼狽えていた。 「おっ、俺……何も言ってない……」 「はぁ? ふざけんじゃねぇぞ! そんな見え透いた嘘も付くようになったのかよテメェは!」 「ひっ……! ぐ、ぅ……ほ、ホント、だって……へ、変なこと言ったなら……想悟の機嫌損ねたなら謝るからっ……」 (なっなんで俺ホントに何も言ってない俺がおかしいのかなどうしてこんなに想悟は怒ってるんだ)  やはり本心からしても、和真は嘘を付いている訳ではなかった。けれどこの耳でハッキリと聞いている。  “理解者になってくれると思っていた”  “あんたに俺は渡さない”  まるで他人事のような言い分だ。  なんだ……? 幻聴でも聴こえているのか。こんなにも何も感じないのに。  仄暗い領域に踏み込んでいるせいで、どこか頭がおかしくなっているのだろうか。  いや、まさか。そうだ。それしかない。  今まで和真を見てきたからこそ、わかるものがあるじゃないか。 「……なあ、お前は誰なんだ?」  口をついて出た言葉。それに幸運なことに、“彼”は答えてくれた。 「あんたのよく知る和真だよ」 「嘘だ」 「証拠は?」 「そんなものはない……けど……」  顔も声も仕草も同じであるし、口が悪いのはいつものことだ。絶対に別人ではない。  性格が正反対の一卵性双生児……そのくらいに、見分けはつかない。けれど彼の持つ雰囲気が全く違うことはわかる。  とても冷たい表情。愛嬌を振り撒くそれではない、むしろ逆で人を突き放すような目つき。  おおよそテストで赤点を取るようには見えない、頭の切れそうな彼が確かにそこにいる。  それなのに、この世に生きていない存在のような儚さがある……。 「そう、か……」  これこそが和真が抱えていた部分ではないのか? と、想悟は合点がいった。  ここまであからさまに別人格が出てくるとは思っていなかったけれど。  それとも、出て来ざるを得ない状況を、己は作り出したのだろうか。 「お前は……和真だけど、和真じゃない……いいや……お前はどちらが本物なんだ……?」  そう問いかけると、目の前の彼はフッと小さく笑った。どうやら愚問のようだ。 「今までずっと黙って見てきたけど、あいつが苦しんでるのを感じるのは俺もいい加減につらくてなぁ……」  伏し目がちに呟く。  そうして心の奥底で共鳴し合っているということだろうか。  和真の方は、この人格について明確に把握している訳ではなさそうだが。  理性の塊のような彼は、首を捻りつつ悠長に頭を掻いた。そして、想悟の恐れる残酷な言葉を吐き出した。 「あいつを殺してやるよ。他の誰でもない、あんたの前でな」 「なっ…………」 「精神ってのはおかしなもんだ。やっぱ……一人の肉体には一人の人格じゃないと、記憶や言動が混在して破綻する。別に乗っ取ろうとしてる訳じゃないぜ? あいつは俺だし、俺もあいつ。小さい頃から、あいつはあんまり自覚してないが、長いことそうやって育って来た。でもいつか蹴りを付けなきゃらねぇ問題ってのはある。それが今になっただけだよ」 「殺すって……どうやって……そんなことしたら、和真は……どうなるんだ」 「精神の死は和真の死と直結する。俺が内から干渉して、自己破壊させるんだ。二度と人の言葉を喋らない廃人になるだろうな。どうだ? 面白いだろ? どうせ壊す予定だったんだから、勝手に壊れてくれたらあんたにとっては楽できて良いじゃねぇか」  廃人化……と思わず口に出ていた。  いくらなんでもそんな真似をして飼い慣らすつもりはない。一定の精神力は保っていなくてはクラブではやっていけないだろう。  自殺行為に他ならない。正に「和真を殺す」ことになる。  理解した途端、足の先から震えるような恐怖が襲って来た。  和真が消える……死ぬ……それは自分がクラブで用済みにされることよりも真っ先に、胸を打たれた。  明瞭な死生観を語る生徒を目前に、想悟は教師として、それよりも人として、空恐ろしくなった。 「や……やめろ……やめてくれ……和真……」 「それはどの“和真”に言ってるんだ?」 「そんなの……二人とも……ッ」 「……ふぅん。……ま。俺も潮時かな」  そう言って彼は、想悟の腕を引っ掴むと、爪を立てるほどの力で握った。  屈強な意志を持った瞳で見つめる。  読心しろ、と。 (ごめんな、和真。お前が一番つらいのはわかってる。だからお前の痛みや苦しみを少しでも俺が分かち合えたらと思って頑張って耐えてきた。けど俺も……そろそろ限界かもしれない。……でも心配しないでくれ。お前の膿は全て俺が持っていってやるから。今後お前が感じるのは、永遠の安らぎだ)  あろうことか彼は自己破壊の目標を自分にした。

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