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財前和真編BAD-3 ※IF、二重人格

「っ……!! やめろっ! 片方が全てを背負って消えても今までのことが帳消しになる訳じゃないだろ! そこまでの犠牲を払うことなのか!」  ピシャリと言い放つと、彼ではない和真も反応した。 「そ、想悟……?」 「黙れ! 和真! 頼むから黙ってくれ!!」  しかし当の和真はそのように言われるほどの言葉を発していない。故に想悟が何をそんなに焦っているのか見当もつかない。  和真が弾丸のように呪っているのは自身の不甲斐なさ。  虚ろな心が自らを、想悟を糾弾し、押し潰そうとしている。 (和真を守れない俺なんてこの肉体に宿っている意味はない) 「駄目だ駄目だ駄目だこれ以上は何も言うな違う和真お前はお前で居ていいんだ和真、和真ァッ……!」  ああ、何だろうか、この感覚は。  まるで自分がしてきた罪が全てのし掛かって来ているかのような。  頭が割れそうだ。髪を搔きむしり、居ても立っても居られず彼を抱き締めた。耳元で何度も名前を叫ぶ。瞳孔は開き切って、ひどく焦っていた。  声を枯らしても和真には届かない。  いや、正確に言うなれば目の前の和真ではなく「和真の心の深淵に住む者」だ。 「想悟、何言ってんだよっ……? お、俺は……ここに……」 「違う! お前に言ってるんじゃない! なあ和真聞いてくれお願いだ」 「想悟……」  もはや和真すらも、想悟の異常な取り乱しぶりにただごとではないと怯えた。  自分を抱く男が、「話しているのはお前ではない」と言う。  そんなもの、狂言にしか思えない。それにまさか、想悟が別人格と心を通じて話しているとは、想像の範疇を超えている。 (和真は誰にも奪わせない。あんたはせいぜい空になった器と仲良くしていればいい) 「どうしてそんなことを……どうして……お前達は一つになれない……」 (一つになろうとすればどちらかは消える運命なんだ。これは和真が望んだことに他ならない。俺の役目は和真がこれ以上傷付かないようにすること) 「本当に……それが和真の望みなのか……? 恥も外聞もかな殴り捨てて、周りから白い目で見られても良いくらいに……」 (そう。それくらい……和真は愛に飢えてたんだ)  両親からの愛と周囲を天秤にかけるほど。  なんて奴だ。なのにそこまでしても両親からは愛されない。どうしようもないとは思わないのだろうか。  違うな、やってきたことが無力だっただなんて思いたくないんだ。それに、気付けるほど器用じゃないんだ。  そして、孤独な和真の精神だけはと守って来たのが奇しくも彼。  超えてはならない一線を超えてしまったと、数々の暴虐を振るってきた想悟でもわかった。  和真の愛への執着を、完全に見誤っていた。 (……ああ……なんだか意識が薄れてきたよ……これが消えるって感覚かな) 「どこに」 (さあ……たぶん、一生光の見えない……真っ暗闇) 「まだ行くな……!」 (……それなら、一緒に来るか?)  突然の提案に、想悟は面食らった。まさか誘いを受けるとは思わなかったからだ。  一生光の見えない真っ暗闇。だがそれも悪くはない。  どうせ地獄に堕ちるならば和真と共に。それが贖罪にもなるのかもしれない。  憎いはずの男を連れて行ってくれるなんて、やっぱり良い子じゃないか、お前。   そう微笑ましく思ったのもつかの間──。 「うっ……ああ……ぐギャハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」  自然と絶叫していた。  頭が……いや、全身が……痛い、熱い、苦しい。息もできない。  まるで煉獄の炎に包まれているよう。  俺が行くのは楽園じゃない。闇。それが地獄というものならば、苦痛を伴って当然だ。  楽に行けるなんて一瞬でも考えた方が馬鹿だった。そんなの、和真が許しはしない。  和真を傷付けない為に自らを犠牲にしたのに、その和真をさらに傷付けたのは誰だ? 他ならぬ自分だ。  見た目は何ともないのに、まるで火達磨になったかのようにその場でのたうち回る。  連れて行ってさえもらえないのか。俺はいったいどこへ行くんだ。  薄れていく意識の中で、嘲笑うかのような和真の笑みが突き刺さった。  それはどちらの和真だったのだろう。朦朧とする頭では、判断がつかなかった。 「想悟様!?」  盗聴器越しに聴いていた鷲尾すらも、事態に驚いたようだ。 「……な、にが、起きたんです……?」  慌てて駆け付けた鷲尾に、想悟はたった一言、 「…………かずまの、ところへ、いく」  それだけ呟いて、操り人形の糸が切れたようにプツンと意識を飛ばしてしまった。  その和真は自分の知らない“和真”を追いかけて行ってしまった想悟を見て呆然と立ち尽くしており、鷲尾も理解不能な状況を呑み込めずにいた。  ただ、和真をこのままにしておく訳にもいかず、口止めにクラブへ連れ出すしか選択肢は残されていなかった。

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