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財前和真編BAD-5 ※IF
「……この……出来損ないのクズが……」
古参の老人達、そして何よりこのようなおぞましき存在を今の今まで生かしたオーナーへの怒りもあいまって、鷲尾は想悟を衝動的に絞首していた。
ギリギリと、強く、確実に死に導けるよう。
「クソがっ……死ね……早く死ねよ、霧島想悟……! 霧島想悟ォオッ……!!」
ギリギリ痩せた喉を圧迫していく。医療用手袋をしているから指紋は残らない。
というより何もかもばれてクラブから粛清されたとしても、それはそれ、だ。
想悟がこの世にいる限り、きっと自分は満足のできる生活は送れない。
そんなこと、耐えられるだろうか。いつかは狂ってしまうかもしれない。
既に自身が狂った人間とは微塵も考えず、鷲尾は自分勝手にそう思った。
監視カメラを見てか蓮見と柳が血相を変えて病室に入ってきた。
「な……鷲尾さん! 何やってるんですか!」
絞首を止めない鷲尾に大柄の蓮見が力任せに両腕を抑えつけている。
柳はと言うと、自由気ままな彼にしては珍しく焦って想悟の傍に寄る。
軽く頬を叩いてみて、規則正しい寝息を繰り返していることを確認して、ようやく安堵したようだった。
「……いったい何があったんですか、鷲尾さん」
「別に」
そう答えるしかない。
嘘をつきようが真実を語ろうが、どうせ想悟には聞こえないのだから。
「上が仕事あるってんで、想悟様の世話、当分俺らや他の人材で代わりますよ……って……言いに来たのに。本当に……なんて馬鹿なことを」
「馬鹿なこと、だと?」
鷲尾は自身の行いを全否定された気になって、蓮見を思い切り睨み付けた。
「俺が……俺がやらなきゃ誰がやるって言うんだ? ええ? こいつは誰がどう見たって化け物だろう。今だって死なないはずがないほど完璧に首を絞めてやったのに……なのに!」
鷲尾はベッドを何度も、何度も殴った。
「ふざけるなクソ! クソ野郎! この俺に大恥をかかせやがって!」
そして、少しは落ち着くまでになると、半ば放心してしまった。
「……何故だ」
殺せない人間などやはり人ではないのだろうか。
神……化け物……わからない……わからない。
もしあの方がここに居たら、どうする。……それもわからない。
こんなにも頭を掻き乱す想悟が、神嶽が、オーナーの言う「化け物」が憎くて、ここまで無情な存在すら生み出したこの世界は面白くて、乾いた笑いすら喉奥から込み上げた。
想悟の傍で狂ったように笑う鷲尾は異常に映っただろう。
「想悟様の世話を代わるって言ったな。断る。別に代わってもらわなくていい」
「いやでも鷲尾さん、お偉いさんのご指名なんすけど」
「俺が想悟様の世話をしたいんだ。オーナーの世話も、神嶽様の側近も俺だった。当然のことだ」
「そうは言っても……どうするよ?」
何やら興奮している鷲尾の姿に本能的な危険性を感じていた柳は、心配そうに蓮見を見やった。
けれどいつも鷲尾の意志は強く、有言実行で、何を言っても無駄だということも、二人はわかっている。
「……わかりましたよ、上には俺らから言っておこう。でも……あんまり根を詰めないようにしてくださいよ」
「何をするかわからないから」そう言いたいんだろう? でも大丈夫、もういい、もうわかった。
蓮見と柳を無理やり追い返して、鷲尾は大きくため息をついた。
そっちがその気なら、こちらも無駄なことはしない。
想悟が生きる限り身の回りの世話は全てする。
そして同じようにクラブに監禁してある和真の調教を引き継ぐ。彼についてはもはや別に誰がやっても良いことだ。
眠る想悟の前で犯すのも楽しいかもしれない。
どんな反応を示すだろう? 想悟も反応が見れないことだけが可哀想だ。
まあ、今の想悟はいわゆる……精神世界での和真とランデブー中だろうから現実の和真は眼中にないか。
オーナーの息子であるくせにこの程度も遂行できなかった。
情けないにもほどがある。
愛しい父、霧島蔵之助も捨てた。
高齢で病魔に侵された彼は放っておいてももうじき死ぬだろう。
現実の和真も捨てた。
けど本当に「和真のところへ行けた」かなんて保証できない。皮肉な話だ。
「発散しなきゃやってられないな」
何十年、下手をすれば生涯。
死ぬのか、死なないのかも断定できない若い主人に罵声を浴びせかける機会はこれからいくらだってある。
そう思いながら、鷲尾は和真の元へ向かった。
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