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財前和真編12-2 ※想悟×新堂、見せしめ

 どうしてそんなにもと考えた時、ふと頭をよぎった。  きっと俺は、心のどこかで和真はもう俺のものだと信じていた。  一挙手一投足、全て管理している。和真はどこにも行かない、俺しか見ない。  とんだ思い違いだ。  奴隷扱いする人間に、お互い信頼もクソもあったものか。逃げられないだけで、本当は逃げ出したいに決まってる。  その意志が彼にはあった。その小さな、しかし大きな勇気が俺にはなくて、和真の方が強かった。  これはどうしようもならない醜い嫉妬だ。 「俺は裏切り者は許さない。新堂がこうなったのは……お前も共犯だからな」 (違う……違う、違う違う違うッ!! でも……事実教頭はこんな目に……心当たりがあるとすれば……やっぱり……うぅっ)  耳元で囁くと和真はすぐに両手で耳に覆い、もう何も聞きたくないというかのように首を振った。  それにしても、あんなに学園の為、生徒の為だと豪語していたエリート教頭の情けない姿。見るだけでも心を痛める光景だ。  新堂のボールギャグを外してやる。唾液まみれのそれは正に一晩中の凌辱を表していて、滑稽だ。  それに新堂自身も、乱す息すらか細く、枯れている。 「も……ぅ……いい、だろう……?」  蚊の鳴くような声で、新堂が言う。 「相手なら……お前の気が済むまで、私が……だから、財前のことは……」  諦めろ、と言いたいのか。なんて生徒想いなんだ。  でも、新堂は最初から眼中にない。今さらメインターゲットに変えるつもりも、ない。 「あんたにそんなこと言ってもらえるのは嬉しいけど、大事なこと忘れてやしないか」  はて、と首を傾げる新堂。  だが、想悟がスラックスから携帯を取り出した途端に、やはり瞳が絶望に染まった。 「綾乃ちゃんがどうなってもいいって言うなら、いくらでも相手してくれよ」  娘の名前を出すと、新堂は猛烈に首を横に振った。 「や、やめてくれっ! 綾乃には手を出さないでくれ……! 頼む、頼むぅっ!!」  想悟をしっかりと見据えて、必死に懇願する新堂。  昨夜もそうだったが、新堂は自分のことだけでは決して折れない。  しかし、娘を引き合いに出した途端にこれだ。冷や汗を流しながら、涙ぐんでさえいる。  誰しも弱点はあるものだが、想悟が学生だった頃は、やれ冷徹だ、やれ鬼教師だと皮肉られていた新堂が、この有り様。  人間というものは子供──すなわち命に代えても守りたい者を作ると、こんなにも弱い生き物になってしまうものなのだろうか?  なら自分は、この先一生必要ないとも思う。まあ、例外として和真の両親はそうではない人種らしいが。  昨夜はあれから何度か犯したは良いが、なんだか百年の恋も冷めてしまったような気持ちだった。  勝手に新堂を美化していた自分にも責任はあると思うけれど……それほど新堂は愛娘しか頭になかった。呆れた親馬鹿だ。 「き、教頭も、教頭の娘も関係ないだろっ……!? なんで、関係のない奴まで巻き込むんだよ!?」 「和真……世の中ってな、そんなもんなんだよ。何も悪いことしてなくたって、不幸になる奴は不幸になるんだ。でもそれに抗える方法があるなら、俺は他人を蹴落としてでも生き残る方を選ぶ」 「そ……そんなことって」 「あるんだよ。だから俺は、和真も、新堂も、全員堕としてやる。他の誰でもない、俺の未来の為にな」  そんなのおかしい。狂っている。初めは想悟もそう思っていた。  だがクラブを知って、あの施設の狂気に深く浸り、そして和真を凌辱していく中で、己の考えも少しずつ変わりつつあった。  俺だってあのクラブを知ってしまった以上はヘマをして死にたくない。父さんを殺されたくない。  だから──俺はクラブから逃げるより、勝算の高い現実を見る。 「まあ、和真がお願いしてくれるなら、新堂を解放してやってもいいぞ?」 「えっ……」 (そんな……こいつがこんなに簡単に許すはずないっ……何かあるに決まってる……けど、今はもう俺だけの問題じゃねぇし……) 「どうなんだ? 早くしないと俺、考えが変わっちまうかも」  白々しく言うと、和真は背に腹は変えられないといった様子で口を開く。 「あ……そ、そんなこと言わないでさ、教頭、放してやってくれよ、想悟っ……」 「はぁ? それが人にものを頼む態度かよ。お前その歳になって目上に敬語も使えないんだな。あーあ、やっぱりやめるかな」 「っ……お、お願い、しますから、教頭を解放してあげてくださいっ……霧島、先生……」  普段馴れ馴れしい態度の和真に、きちんと敬語を使わせる。それが、和真よりも優位に立っていることを実感させてくれる。 「わかった。良いぜ。ただし、俺からの命令を聞けたらな」 (やっぱり……) 「……何をすればいいん……ですか」  呆れながらも、和真はなんとか敬語を崩さずにいる。  想悟の魔の手が和真だけではなく、新堂にも及ぶことを懸念しているのだ。  想悟からすればもう新堂も十分に手遅れなのだが、それでも和真は新堂を、そして綾乃を助けたいらしい。  なんて教師思いの優しい生徒なのだろう。周りの奴がこのギャップを見れば、和真が不良の問題児だなんていう誤解も解けるだろうに。

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