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財前和真編13-4 ※二重人格、逆レイプ、グロ

 すると、ずっと余裕の笑みを見せていたカズマが不思議そうに目を細めた。 「治って、る……? 嘘だ、こんなことされて平気でいられる人間がいるはずないだろっ!?」  初めて焦ったような声で言った。  さすがに傷付けられるスピードにまだ身体が追い付いていないようだが、読心と同じく、初期よりは遥かに高くなった治癒力が効果を発揮し始めた。  既に外に出されてしまった血液や臓物が戻ることはない。正確には、治るというのは少し違って、身体の中で必要なものを、新しく生み出すという感じだ。  女性が十月十日をかけて子宮の中で人間を創造するのと、メカニズムは似ている。ただ、栄養素は自分自身。  というより……やはり、死にたくない、まだ死ねない、生きたい、生きねば。そういった人が持つ根本的な生命エネルギーなのだと思う。 「駄目なんだよ……グッ……死に、たいけど……死なせてもらえないんだ……。俺は、呪われてるから……」 「呪われてる?」 「生まれつき、なんだよ……しょうがない、だろ……好きでこんな身体になった訳じゃない……はぁッ……」 「……あんたも、やっぱりあるんだな。人には言えないような力が……」 「……え……」 「そうか。あー。なんか納得した」  何かから解放されたかのように、カズマはぐっと伸びをしながら宙を仰いだ。 「何を焦ってるのかは知らねぇが、必死こいて俺を犯してる姿、自分で想像したことあるか? まるで獣だよ。人間じゃねぇよ。でも、それにしては変に理性的な時もあって……やってることが無茶苦茶なんだよ、あんたは」  想悟は怒るよりも、黙って聞いていた。  彼には自分がそう見えているのか、という事実が一つ。  冷静になってみれば、クラブから逃れたいあまりに、ゴールから逸脱した言動をとっていたこと。  それから、和真と、心の底から対話したいとは思っていなかった。  上辺だけの読心。相手を理解する為の能力であるはずなのに、その考えは一方的すぎた。  弱い人間が嫌なのではなく、人間は皆弱いことを認めようとしなかったのは、紛れもない自分。  俺の中で最も恐怖なのは、父さんを失うことより、クラブに幽閉されることより、何よりも。  俺の存在だ。どうしてこんな身体で生まれてきたのか。  この能力があるからこそ、今さらになって、いろんな人間に翻弄されて……。果たしてそこに意味はあるのだろうか。  血塗れで臓物が出た想悟を前にしても、カズマは至って冷静だ。  ましてや治癒能力なんかが露見したせいで、曲がりくねった小腸を、肉屋に吊り下げられているソーセージみたく取り出しては、ブチュグチュと握り潰して遊んでいる。  体内を弄ばれるのは意外と痛覚はないが、それこそ不気味としか表せない。  凡人ならとっくに死んでいるはずの残虐な拷問にも、どうしてか落命することがないのだ。自分でも奇怪すぎるのは重々承知だ。 「生命力半端なっ……。どこまでしたら死ぬんだよ」 「試した、こと……ない……」 「そっか。……なるほど、な……」  腹だけじゃ足りないと思ったのだろうか。再びノコギリを手にしたカズマは、喉笛にその切先を突き付けた。  次は首と胴体をバラすのか? あるいは心臓を取り出して潰す? 出血は超短時間で治るのだから、脳を破壊するのが確実か?  もはや諦めの境地に、想悟は薄目でカズマを見上げ、自身の最期を待った。  ──プツン。操り人形の糸が切れたかのように、いきなりカズマの身体が弛緩して倒れ、想悟から離れた。  俺が死なないから、弱らないから、カズマは興醒めしてしまったのだろうか。  ただ、目の前にいるのはつまり地の和真である訳で。 「ん……うわっ……俺、なんで裸なんだ……!?」  意識を取り戻すなり、途端に慌て出した和真。想悟を見て、ひっきりなしに目が泳いでいる。  もう、戻った……のだろうか? ということは、和真としては自分の記憶のない内に犯されたものだと考えるかもしれない。 「覚えてない……のか?」 「…………ッ」  ただ率直に聞くと、いくら記憶がないとはいえ、とんでもないことをしでかしたと瞬時に悟り、涙目になる。 「……俺……何、した? なんで、こんなことっ」 「……和真」 「ちがっ……ぁ……俺じゃない……俺じゃないからっ! 何番だっけ、救急車……!」  ずっと焼けるような痛みに襲われ続けていたけど、遂に全身の血が流れ出たような冷たさを感じ、意識が薄れていく。 「俺は、たぶん、平気……」  そう最後になだめてやったが、錯乱する和真には聞こえていたかどうか。  ……あいつにしてやられたな。  乾いた笑いをこぼし、想悟はふわふわと浮くような感覚に身を任せ、力を抜いた。  和真は確かに救急車を呼んでくれたようだ。それは、盗聴器越しか、一般の医療機関ではなくクラブのものだったが。  慌ただしく医療棟に運ばれ、緊急手術を受けた。  どう考えても致命傷らしかったが、長年オーナーに仕えてきたスタッフ達も驚きの回復力を見せた。  さすがの想悟でも、全快までに数日仕事を休んだ。しかし、逆を言えば“たったの数日”で済んだとも。  数日寝ていたベッドで、医師らと鷲尾の居る前で包帯を取る。 「ああ……くそ。なんで治りやがるんだよ」  いっそのこと死ねたら良かった。もうこんな生活は嫌だ。耐えられない。逃げてしまいたい。でも父さんを見捨てることはもっとできない。  それに、あれだけしてきた和真に殺されるのなら、それはもう本望だ。この短い人生に微塵も悔いがないとは言えないけれど。  とても中身が露出していたとは考えられない、刃物や穴の一つも開いていない、手術痕すら存在しない、健康的な引き締まった腹。  試しに拳で殴ってみても、もうびくともしない。  あのまま臓物が全て出て、この身体はもはや空洞なのではないか? そんな非科学的な──そもそも読心や治癒能力については生まれつきなので言えないが──ことまで考えてしまう。 「財前和真はどう致しますか?」  鷲尾はあくまで冷静に聞いてくる。  ああ、治癒能力だとかも、こいつはきっと神嶽を前に目にしているんだ。俺が死ぬ見込みは低いと考えているのだろう。  和真というより、正確にはあの副人格にやられた。だから和真を粛清するのは、また違う話だと思う。 「生きてるんだよな」 「ええ。世良様の元、厳重な監視……いえ、保護はしておりますが」 「ならそのままだ。何事もないように振る舞ってくれ」 「しかしそれでは」  クラブにとって脅威かもしれない、と言いたいのだろう。 「俺は大丈夫だし、和真も……落ち着かせてみせる」 「……想悟様がそう仰られるなら」  鷲尾は恭しくこうべを垂れた。声音も彼にしては自棄気味なのか投げやりで、あんまり期待はしていなさそうな顔だった。  それもそうだ。あんな目に遭っては、普通はくたばっている。  なのにくたばらないから、鷲尾やクラブスタッフ達からすれば後継問題を無視できない。オーナーの遺言とは古参幹部をも唸らせる重さがある。  俺はやはり、オーナーの血の繋がった親子なんだ。  淡々とした周りの反応で、無情な現実を痛感した。

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