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財前和真編14-2

「それが……俺にしたことの真実」 「ああ」 「でも……なんで、そんな……血とか、関係ないじゃん。あんたは父親と本当の親子だと思ってるんだろ? だったら、何も恥ずかしいことなんか」 「違うんだよ。……俺もそう信じたかった、けど。やっぱり違うんだ。俺はあの人のような人間にはなれない……。初めてお前を犯して湧き上がる衝動が抑えられなくなった時、俺は顔もわからない実の親の血を確実に引いているって痛感したんだ」 「実の……?」 「ああ……母親はわからないけど、父親は……俺の想像を超えるような悪逆非道を働いてきた犯罪者らしい。いくらクラブに脅されていたとはいえお前に酷いことしてきて、今さら父親のせいにするなんて、言い訳がましく聞こえるだろうな……」 「……やっぱ親じゃねぇよ、そんな奴」  少しだけ考え込んだ様子の和真が、ぽつりと呟いた。 「俺は……親の道具扱いでも、最初こそ……二人が仲が良かった頃の分までは、俺に愛情をくれたっていう恩はある。でも事情はどうあれ顔も知らないなんてありえねぇよ。なら何を迷う必要があるんだ。想悟の父親は、手塩にかけて育ててくれた霧島蔵之助……それ以外に誰がいるんだ?」  落ち込んでいたのが嘘みたいに強い口調で、「想悟がそんなにうじうじしてたら、父親がどう思うか」なんてため息をつかれた。  まさか和真にこんな言葉をかけられるとは思っていなかった。  今一番傷付いているのは彼のはずなのに。  こいつをここまで追い詰め、孤独にしたのは俺なのに。 「……なんであんたが泣いてんだよ」  言われてから気付く。想悟の目からはほろほろと独りでに涙の粒が溢れ出していた。  そう、何故。奴隷扱いしている和真に同情された悔しさから? ずっと溜め込んでいたことを言えてスッキリしたから? 誰かに言って欲しかった言葉を、与えられたから? 感情が混ざり合い過ぎて頭が壊れそうだ。  さらに驚いたのは、和真にまるで立場が逆転したかのようにふわりと優しく抱き締められた。  子供の頃、蔵之助にしてもらった時ぶりの感覚だった。そんな遠い記憶を引き出すほどの安心感がそこにあった。 「な……和真」 「全部初めっから言ってくれれば良かったのに……口に出さなきゃわかんねぇよ……この大バカ野郎が」 (想悟が……そんなに苦しんでるって、俺、知らなかった。知ろうともしなかった。よく思い出せば脅される前から様子がおかしかったのに……。俺がもっと心開いてやれば……今頃なにか変わってたのかな……)  なんだよ。大根かと思っていたのにやっぱり凄まじい演者じゃないか、こいつは。  もしかして和真もずっとそんな風に考えてくれていたのか。一本取られた気分だ。  しかしどうして俺なんかを元気付けようとする必要がある?  いっそのこと罵詈雑言を吐き散らしてくれたら、全てお前のせいだと憎んで責めてくれたら──いや、それこそ初めだって、和真は想悟を肯定するようなことを言ってくれた。  戸惑いのあまり想悟はやり場のない両手をどうしていいかわからず抱き締め返すことはできなかったが……どうしてだろう、この時ばかりは和真の顔を直視するのがものすごく恥ずかしかった。  とっくに身体の関係を持っているのに。クラブで素性も知らない輩の前で和真を抱いているのに。 「……悪い。格好悪いとこ見せて」 「最初から格好良くもねーっての。その……俺も……あんたなんかが相手なのに……なのに……たまら、なく……」  やはり相当な我慢をしていたのだろうか、一度は呑み込んだはずの感情が溢れてきたらしく、和真は大粒の涙を溢れさせ始めた。 「俺っ……もう何もかも嫌だった……あんな家に帰るくらいならとかっ、いつ今日みたいにマスコミにばれるかとか思ったら、思考停止で性奴隷になる方がマシだなんて思うほど追い詰められて……死んじまいたい毎日だったよ……! えぐっ……うううううぅぅっ」  こんな風に何かに癒しを求めたい時は、人の温かみとやらを感じたかったのだろうか。  それも……誰でもいい訳ではなく、一応はかくまってくれた想悟に。身体を重ねた情け……かもしれない。  幼子のように片手で涙を拭いながらも、一向に泣き止めない和真。 「俺にしたこともっ、教頭まで巻き込んだことも、許せはしない。けど……あんたはあんたなりにいつ父親が殺されるか怯えながら生きてたんだなって思ったら……疫病神とか言ったの……ホント、悪かった……ごめんな……ごめんっ」 「……和真こそ謝るな。クラブはどうあれ全部俺のせいなのは事実だ。俺は、自分と家族の犠牲より、お前の苦しみを何倍にも膨らませることを選んだ。……他人になら何してもいいって、きっと心の底ではそう考えてたんだ……。俺なんかに優しくするな。新堂の為にも、俺を許すな。いくらでも憎めよ。ただ、俺も一言だけ言わせてくれ……本当にごめん」  二人して謝ってるなんて、和真の担任になって、生意気な態度に辟易していた頃や、凌辱を始めた頃は想像だにしなかった。初めてお互いの本心を吐露し合えた気がした。  それは和真も感じ取っているようで、想悟の謝罪が上辺だけのものではないと、うんうん頷いて聞いていた。  先ほどのお返しという訳ではないけれど。和真の頭を撫でていたら、徐々に彼の涙は引いていった。

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