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財前和真編14-5 ※二重人格、和姦

「っ! ちょ……今はやめ……くぅっ」  完全に不意打ちだった。扱かれていたペニスが、和真の口内に消える。 「なんれ……? きもひよく、ひてやるんらからよぉ……大人しくしてろよなぁっ……」 「そういう問題じゃ…………っく」 「んっ……ぐ、もぉ……れろ……れるるっ……ふふ」  先っぽを重点的に舌で舐り転がす。上目遣いの瞳はどこか微睡んでいて、しかし熱を帯びて、野生的だ。  もがく想悟が鬱陶しかったようで、和真は両脚を自らに引き寄せるようにして押さえ付けると、喉の奥まで咥え込む。 「んぐっ、ぐうっ……ぐぽっ……じゅるっじゅるるううぅぅっ!」  無理やり想悟の良いところを刺激して逃がさない。 「和真っ……そんなにしなくて、いいって」 「……うるへー」  また、じゅるるっと強く吸われた。こんなにされては辛抱たまらない。  さっきみたいに、溺れるほどのキスをしたい。抱きたい。射精したい。和真のことも泣くほど気持ち良くしてやりたい。  気付けば和真の頬を両手でしっかりと押さえ、フェラされていたことなんて気にならないほどの熱量のキスを浴びせた。 「ん、ッむぅ、うぅっ……!?」  和真もいきなりキスされて驚きつつも、舌を絡めるたび力が抜けていく。 「想悟」 「な、なんだ?」 「あんたが人の心も読めるなら……俺がして欲しいこと、して」 「……ああ」  その力も信じてくれるんだな、とぼんやり思いつつ、想悟はこつんと額同士を合わせ、目を瞑った。 (誰よりも俺のことを見て全部好きでいて死ぬまで愛して)  ……思っていたよりかなり重い要求だ。  感情がコロコロ変わるし、やきもち焼きみたいだし、表面上のチャラさで付き合ったりなんかしたら、その辺の奴は尻尾を巻いて逃げるかもしれない。  でもこれが和真という人間が欲する全てなんだ。彼には愛以外要らないんだ。  それに、文字通り「死ぬまで」となると、どんなに歳が離れていても和真より先には絶対くたばりそうにない人間──もはや人間と言っていいかはわからないが──者しか当てはまらないことになる。  そんな奴は……まあ、滅多にいないだろうな。和真の頬を指でくすぐる。 「俺で良ければ全部受け止めるよ」  永遠の安息を得たような優しげな表情をした和真の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。  一連の行為が終わって、隣でシーツにくるまっている和真を見やる。  こういう風に彼を見つめるのは新鮮だった。いつも、見ているようで見てやれていなかった……そんな風にさえ思う。  俺は駄目な奴だ。人間としても、教師としても。それに比べて、お前は。どれだけのことを耐え忍んで生きてきたんだ。  無性に抱き締めたくなって、肩を寄せると、幸運なことに和真は応じてくれた。「いい加減まだ?」と笑われるまで、ずっとずっと胸に抱いていた。  カーテンを少し開けると、辺りはすっかり夕暮れだった。今夜は両親から正式にコメントが出る。世論が騒がしくなる。だから、行動を起こすなら今しかない。 「そろそろ……行くか」 「…………」 「あの地下クラブにさえ逃れればお前はきっと自由だ……。大丈夫。お前を一人にはさせない。だから、一緒に……」  言いかけて、言葉を改める。 「一緒に変わってください」  小指を出しつつ言った。自分には一生口にすることはない、プロポーズみたいな気分だった。  返事を待つのは先のキスよりもやきもきしたが、ここで引いては今までの事柄全てを拒絶する気がして。和真の揺れる瞳をじっと捉えて、何も言わずに辛抱強く待った。  こんなにも深く関わり、交わり、そして互いに苦悩し合ってきた時間だったのだ。  運命の赤い糸の相手は、お前だ。いいや、お前がいい。お前でいてほしい。願うように頭の中で浮かべる。  だが、その手は無情に払い退けられた。 「嫌だ」  上体を起こした和真は──あの冷たい瞳のカズマだった。人格が変わったことをすぐに察した。 「俺は……な」  汗ばんだ髪を掻き上げながらカズマは言う。 「俺は嫌だけど。和真、あいつ……本当にお前で満足なんだとさ。もう傷付きたくない……何もかもかりそめの世界でも、今度こそ良いんだって」 「……二人同時に受け入れてもらうことは、やっぱり無理か」 「当たり前だ。だいたい、俺も落とそうって? 馬鹿か、それこそ和真が悲しむじゃないか、浮気者」  それでも彼は最後に、 「和真を頼む」  真剣な声音で囁くと、想悟の頬にキスをした。  そのあと、ガクッと倒れて、気絶したようだ。ほぼ一瞬だったのでわからないが、次に目を見開いた和真は普段の彼だった。  頭がぼんやり霞む、と訴えていたので、しばらく背をさすったりしながら様子を見ていた。 「あいつ……居ない……」 「あいつ?」 「そう……俺……。なんとなく、そんな気がする……。どこ行ったんだろ……」  分裂した人格の行く先は見当も付かない。宿主から出て行って元に戻ったとも言えるし、均等をとっていたあるべきものが消滅してしまったとも考えられる。  そのどちらが正しいのかも、想悟には……いや、和真にもわからない。  ただ、和真はきっともう大丈夫だと思えた。  再び窓の外を見やると、クラブの車の他に、青々とした新緑が目に入った。 「もう夏だな」 「そりゃあ……そうだろ。エアコンしてても暑いし、っつーか余計に暑苦しくなることヤッたし」 「……うん。桜……父さんと……皆とまた見たかったな」 「……そっか」  余命幾ばくもない父とはそんな些細な出来事も叶わない。  それを察して、感傷に浸る想悟を和真はただ黙って見守ってくれていた。

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