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財前和真編END-2 ※幼児退行、男娼

 一時期から、とあるポルノ男優が芸能人の息子に似ているとされ、物珍しさもあり、若い世代を中心として世間を騒がせていた。  基本的にはモザイクはかかっていたが、時々無修正のものもあり、それを見た視聴者からの「ホクロや歯並びが完全一致」「でもそれじゃあ、年齢的に犯罪じゃない?」「不倫なんかするから子供が非行に走るんだよ、ざまあ」「犯罪家族」  ……そんな自らは絶対に特定されないだろうと思い込んでいる輩の酷い言葉ばかりが、掲示板やSNSで今では見たくなくても目に入るほど。たぶん、面白がった学園内部者からのリークもあっただろう。  この時代、一度インターネットにアップされてしまったものの火消しは難しすぎる。  サイトから消えては増えの繰り返し。  サジェスト汚染もされてしまったことから、ただでさえ自分達の後始末で精一杯だった財前夫婦というスターは地上に転げ落ちた。  それでも代わりはいくらでもいる。もう一世代若い俳優達が、また芸能界を席巻してくれるだろう。  ともかく、ここまで事が及んでしまった以上はさすがに離婚は成立する見通しらしい。  初めは互いに慰謝料や親権を徹底的に争う予定だったようだが、和真のことがあってからはそんな風に悠長に裁判をしている暇もないと判断し、互いに様々な面を妥協した上で、より早く離婚に持ち込むそうだ。  今度は正真正銘、和真を仲良し家族エピソードの駒ではなく、たった一人の愛息子として心配している。  あのポルノ映像の彼が和真だとは到底信じたくないが、無修正故にはっきりと見える顔や身体の特徴、和真が最中に口走ったことは両親にしか知り得ない情報だ。  それなら、和真は何か非合法な人間達と通じてしまったと想像するのは容易い。  今さら司法に頼ったところで、クラブに堕ちた和真を救う手立てなどない。失ってからその重責に気付くなど……あまりに遅すぎる。  無様な末路を辿っている彼らとは対照的に、もう周りに嘘をつく理由のなくなった和真は、何も悩むことはなく、クラブで生き生きと過ごしていた。  好きな時に寝起きし、好きな時に食事をし、しかし、想悟や会員と自身の性欲を満たす行為はキッチリとする。  基本的には良い子だが、たまに悪戯をしては「見て!」と悪びれもない言動もある。  そんな彼は幼少期は正にこんな風だったのだろうなと思わせてくれて、とても無邪気で可愛かった。  今日もクラブの一室で、以前よりもやせ細った和真が犯されていた。 「ほら、見てごらん、また君のニュースをやっているよ。君はここにいるのに、おかしいねぇ」  男に髪の毛を掴まれて、和真はよろよろと目を向ける。  コメンテーターや専門家が好き勝手に見解を述べているが、和真はそれを見てももう自分のことであるとすら認識できないようである。 『詳細は警察の方々にお任せしておりますが、報道にもあります通り、もしご両親のことで何かショックを受けたのであるとすれば、本校は彼を以前と変わらず暖かく受け入れ、見守っていく所存で……』  あれは学園長として記者会見を行わされている世良だ。事情を知っている側からすればなんとも白々しい茶番劇だ。 「そ、そんな、こと、どうだっていい……もっと……チンコ……チンコ欲しい……お願いですっ……ください……」 「おねだりしてくれるのは可愛いが、貪欲すぎるのも嫌いだな」 「きっ……嫌わないでっ! 嫌われるのいやだっ! 何でも言うこと聞きますっ! だから捨てないでお願いしますうううううっ!!」  たったそれだけで、和真はわぁっと泣き出した。  しかしそれを制したのは鷲尾である。 「お時間でございます」 「な、なにぃ? 延長は……」 「これが最後と申しましたでしょう。彼を使いたいお客様はまだまだたくさんおりますので、どうかご容赦を」 「ううむ……わかった、名残り惜しいが仕方ない」 「いっ、いやだ……行っちゃ駄目だ……お、俺も、もう少しでイケそうなのにっ……」  和真は己からペニスを引き抜こうとする男の手を握って止める。 「和真。我が儘言わない。スクラップにして捨てるぞ」  鷲尾に諭すように言われると、泣き顔はそのままに、むすっと口をへの字に曲げた。  男と同じく、完全には欲求を満たされなかったので、かなり不機嫌である。 「あぁぁっ……寂しい……ま、また来てください……待ってるから……」  和真の猫撫で声を聞いて、男は欲望を満たしておかなかったのを後悔するのだった。この分なら、次も必ず来るだろう。  和真を抱いていくのは皆、初めはその美貌や肩書きに釣られた者だが、どんどん深みに嵌っていく。  自分がいなければ和真は満足しない、生きていけないのだと思わせることが実に上手い。小悪魔のようだ。  しかし和真の心が満たされることはない。  和真をここまで悩ませた両親とはもう二度と会うことはない。  心身を変えてしまった霧島想悟にも、惜しみない愛を受けていると思っている。  だが、和真の要求は「死ぬまで」だ。そもそも、そんじょそこらの行為では満足する訳がないのだ。 「さ、身体洗おう。後がつかえているからな」  鷲尾に抱きかかえられる。和真は大人しく、なすがままだ。 「大丈夫。死にたくなったらいつでも殺してやるからな、和真」  おぞましい言葉であるのに、和真はまるで「玩具でも買ってやる」と親に言われた子のような笑みで、こっくりと頷いた。

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