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財前和真編END-3
自分だけではもったいない、というよりクラブとの契約のようなものとしても、想悟は和真に定期的に客を取らせている。
予約が既に何年待ちだったか……彼は誰がどう見ても立派な男娼となり果てた。
そうして想悟は、今の和真を見ていて一つ気付いたことがある。
ずっと追い求めていた“心の清い者”には、人間の醜い部分など見えず、社会の荒波に揉まれることもない、純真な子供が含まれるのではないかと。
そして、それは幼児退行してしまった和真もまたそうではないかと。
神嶽がそんな人間を求めていたかどうかはわからない。むしろ大それた目的などないのだろう。
けれど、読心という強すぎる力がある中では、そんな風に心を読むには難しい年頃の人間には、ある一定の興味があったのだとは思いたい。
完全に同じ、という訳ではないけれど。神嶽の立場に立ったことで、なんとなくだが彼なりの奴隷に対する考えもわかった気がした。
今回は、まあこんなものだ。次はもっと上手くやってやる。
……なんて、上昇志向すら湧いてきてしまったのだから本末転倒もいいところである。
今晩の仕事を終えた鷲尾に聞いてみる。
「和真の様子は?」
「たまにはご自分で視察されてはどうです。想悟様が恋しくてたまらないようでしたよ」
「……そうだな。和真が何かしたら多少は俺の責任にもなりそうだし」
責任問題はともかく、和真を観察するのはいつだって飽きない。
ずっと彼の面倒を、どんな姿になっても等しく見る。絶対に嫌いにはならない。彼よりも長く生き続ける。それが永遠の約束でもある。
和真が居る部屋へ向かう途中、布をかけられた人間と思しきものがストレッチャーで運ばれていた。
おおかた、やりすぎた行為をされたり、そもそもスナッフフィルム撮影に使われて死んだ奴隷だか、テクノブレイクした会員だか。奇しくも、死体を見るのももう慣れた。
「そういえば……新堂は……」
これまで胸につかえている懸念を思い出して、恐る恐る聞いてみる。
「ああ。生きておりますよ」
「えっ……ほ、本当か!? 俺は……てっきりもう……」
「あれの処遇についてお聞きした時、実は想悟様を試していたのですよ。殺しても良いかと訊ねて、迷わないかどうかをね。……ま、クラブとしてはそんなにもすぐに殺してしまってはもったいないので、あなたがどう答えようが生かすことは決まっておりましたが」
「そう……だったのか……」
しかしそれも今さらの話だ。
生きていたとして、新堂が今どこにいるのか、どんな目に遭っているのか、そう無粋なことは聞くものではないだろう。
それに、聞いたところで何になる。恩師とは完全に決別した。もはやあれは想悟には何の関係もない奴隷の一人に過ぎない。
ただ……娘の綾乃だけは本当に今回の件の犠牲になったと言える子だった。
ただでさえ両親の離婚、西條家の心中という悲しい出来事をその小さな身体で背負っていたのに、頼れる父が失踪し、綾乃はあまり学校に来なくなったそうだ。今は母の元で、親戚などの支援も得てなんとか生活しているらしい。
綾乃は自分のせいで孤独になった。それは紛れもない事実だ。
けれど、想悟も彼女の気持ちは少しはわかる。
歳の離れた養父は自慢の存在だが、皆と同じ年代の父親と比べれば、体力はなくあまり遊んでもらったこともなければ、知識も古かった。
母親は、もちろんどこの誰かだかわからない。……わかっていれば、親失格な人間だとしても、憎むことで今後の人生の糧になったかもしれないのに。
何もわからないことがここまで胸を苦しめることになろうとは思いもよらなかった。
結果的に自分と同じような境遇にしてしまった綾乃に関しては、悪いとは思っている。罪など償いきれない。
ただ一つ願うのは、彼女にはまだ母がいるのだから、今は受け止められなくとも、ゆっくり健やかに育ってくれることだけだ。
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