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第3話
村人の言う通り、村で一番大きな家を目印に歩いていくと、皆が集まっていた。
街灯はなく、家の灯りも今は消されているため、空の闇には普段こんなに見えていたのか……というほど、満天の星空。
教えてもらえば星座もはっきりとわかるくらいに光り輝いている。空を見ていると、まるでこのまま吸い込まれてしまいそうだ。
村の中心には焚き火が燃やされていて、七輪でアジの開きが焼かれていた。
しかし、自分で買うものより大きくて脂が乗っている。
一足先に食べさせてもらうと、味付けは塩のみだが、シンプルに白身魚の旨みが感じられて病みつきになりそうだ。
村長は少し腰の曲がったお爺さんで、なんと九十歳を超えているらしい。
それなのに、耳も目も良く、会話をするのに全く困らない。
他にも歳のいった村人はいたが、その人も若者ですらよろめいてしまいそうな大荷物を運んでいて、なんとも逞しかった。
やはり外から人が来るのは珍しいもののようで、皆とても気さくにしてくれた。
周りを囲むようにして話しかけてくる若い衆からは、どうして教師になったのかとか、ここにはどれくらい居る予定なのかとか、未婚であるかどうかとか……いろいろ気になるのだろう、質問責めにあった。
「おおーい! 新入りに今日獲れたものをやってくれ」
村長の一声で漁師が持ってきたのは、体長二メートルは優にありそうな巨大な黒茶の魚だった。
大きな魚でもスーパーでは切り身で売っているが、さすがにこんなものは見たことがない。無論水族館でもだ。
「これ、なんだかわかるか? 深海魚じゃよ。こっちの方言じゃサットウと言ってな、外ではアブラソコムツと言うんだったか……」
「深海魚!? 食えるんですか」
「そりゃあ、中には不味いものもあるが。日本で一番深い海がそこにあるんじゃぞ? 毎日、いろんな種類の魚が大量大量。この村でしか食えない珍しいものがたくさんあるから、あんたは本当に運がいい。……おっと、今さらだがあんた魚嫌いではないな?」
「い、いえ。むしろ海産物は大好きなので良かったですよ。それにしても……レア魚かぁ」
「先生にもわかるものと言うと、ノドグロだろうかねえ。タカアシガニも食える」
「うおお!」
ようやく自分も知っている名前が出てきた。
食べたことはないが、高価で、しかも新鮮でないと駄目だという知識はある。それが食べられるのか。
サットウというのは大トロに味が近かった。
なんでも、あまり食べすぎると身体に悪いらしく、ほんの少しの刺身であったが、この脂の乗り具合では十分すぎるほどに思えた。
「ところで、先生。これがどうしてアブラと名前につくか、わかるか?」
「え? なにか理由があるんですか?」
「食いすぎるとな、尻から油が出る」
「うええ!?」
「その量なら大丈夫じゃよ。わっはっは」
などとからかわれながら、目の前で漁師が大きな魚を豪快に捌いて、村の皆に配っていく。
解体自体もショーのようだし、さらに出される食事はどれも美味しい。
マグロ、カサゴ、タイ、エビにイカ。さらに先ほどのタカアシガニ。
酒まで嗜む程度ではあるが飲み、年甲斐もなく高揚してしまった。
俺の歓迎会という名の村中を巻き込んだ豪華な晩飯は、夜遅くまで続いた。
(ちょっとテンション上がりすぎた)
家に帰って就寝準備をし、布団に入ってから、急に恥ずかしくなってきた。
初めて会う人達とあんなに打ち解けられたのは良いこと……であるとは思うが。
俺がここに来たのは、何よりこの村の子供達の為だ。
それについては、明日、接してみないことにはわからない。
よしっと気合いを入れて目覚ましをかけ、瞼を閉じるのだった。
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