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第6話

 あくる日の放課後は生徒達の親御さんに事前に許可を得て、家庭訪問をしていた。  直前に行ったのは朱の家。  彼女は母子家庭で、母はずいぶん苦労をしているようだった。  父のことは触れてほしくはない話題だろうから言ってこそいないが、実年齢より少し老けて見えるし、持病もあるらしい。  もしかすると、朱が小さい頃は何か心ないことも言われてきたかもしれない。  それでも、彼女も朱の持ち前の明るさに救われているようだった。  事実、朱は村に来たばかりのよそ者である俺にも優しい。  たくさん朱のことを褒めてやると、やはり自慢の娘なのだ、照れたように柔らかい笑みを見せてくれた。  最後に、真白の家を訪れた。  全ての家にインターホンはないので、声掛けしながらノックする。  ガラガラと引き戸を開けて出てきたのは、他の村人とは一風変わって、艶やかな漆黒の着物に身を包んだ女。 「あ……金浦学校の佐藤です。今日は、家庭訪問に……」 「家庭訪問……ねえ。それで……真白。うちに見られて困るようなものはあるのかい」 「い、いいえっ。ありません。ただ、先生が言うので、その……」  この家にいるのは真白とおばだけだと言う。では、この人が。  咎めるような口調で言われ、真白はおばの後ろに隠れるようにして様子を伺っている。  なんだ……? ただの家庭訪問なのだから、やましいことなんてない。  そう考える方が……俺がよそ者だから、警戒されているのか。  朱の母はとても温厚な人であったから、かなりの温度差に困惑する。 「いえいえ、ご家庭の様子を聞きに来たのは皆と早く打ち解ける為ですし、他の親御さんの家にはもう回ってきたところですから」  おばは俺の爪先から頭のてっぺんまでを吟味するように目を動かし、ふぅん、と呟いた。 「わたくしは椿道代(つばきみちよ)と申しますわ」  言葉の節々にも、なにか威圧してくるような、ずいぶん高圧的な人だ。  村人は皆、俺に良くしてくれていたのに。初めて邪険に扱われた。 「あ……あの。日向真白くんのおば様……とお聞きしたのですが」 「おばと言っても、血は繋がらないのでしてよ。この子の両親、この子が生まれてすぐにとある……事故に遭いましてね。親戚も誰もいなかったので、村でちょうど良い年齢であったわたくしが引き取った。それだけです」 「は、はぁ。でも……その、事故って……?」 「あら、ふふふ……そうやってあらぬ詮索をするのも、教師の務めなのかしら? それともうちの真白がそんなに気に入った?」  椿というこの女に見られていると、心の中が全て筒抜けのような気がする。  背筋がぞわっとするような……男を誘うそれでもない……このわだかまりが何なのかは理解しがたがったが、それでも。  真白がこの家に居て、本当の子のように可愛がられている訳ではない、それだけは痛感してしまった。  立場上は義母と言っても、母性の微塵も感じられない。  椿の言動は絶対で、反抗は許されない。思春期の子供にとっては、とても窮屈な環境としか思えない。  「面倒を見てやっているだけ感謝しなさい」と言わんばかりだ。  子供を大人の都合の良いモノとしか考えていないのか?  教師としてより、人として、このまま真白をこの家に置いていくには気が引けた。  だが、彼には他に行く当てがない。  結局、短く屈辱的な家庭訪問が終わると、玄関先で椿に頭を下げて椿家を出た。  真白は「あなたは向こうへ行っていなさい」と言われたので、送ってはくれなかった。  家には一歩たりとも上がらせてもらえなかったので、真白の生活実態はわからない。 (さすがに虐待とか、受けてないよな。ううん……)  そうであっても、どうすべきか。そういうケースには遭遇したことがないし、児相、またそれに似た施設もない。かと言って狭い村の中では引き離すことも……。  経過観察、しかないか。何もできない自分にやきもきした。

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