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第7話

 ほんの少しでも息抜きはしてほしい。そんな理由で休日、真白を遊びに誘った。  真白は俺の家の前まで来てくれたが、いつも通り、パーカーを深く被って日陰にいる。 「こんなに良い天気なのに、当たらないのか? それとも、日焼けが気になるのか」 「気になるっていうか……あのね、日光に当たると、すごくつらいの」 「……? アレルギーか何か、なのか?」 「あれるぎー……?」  本人は全くわかっていないようだ。  そういえば、アルビノの人間は人より紫外線への耐性がかなり低いと聞いた。  日焼け止めは必須なんだろう。いや、必須のはずだが……なるほどここでは手に入らないのか。  持ってきていた日焼け止めクリームを肌が露出している部分に塗ってやった。  最初はひんやり、ベタベタとしていて不快なようだったが、しっかり肌に馴染ませてやる。 「うう……なにこれ」 「これ塗ってると日焼けしないんだ。しても、普通より格段に軽く済む。これで日光も怖くないぞ。ほら、こっち来てみ」 「…………」 「赤くならないし痛くもないから、家に帰って風呂に入ったら嫌でもわかるよ」  真白は覚悟を決めてえい! と陽の中に出た。日照りが真白にも直撃する。 「う、んん……? 何にもない……」 「だろ? 意外と何とかなるって」  それと、もう一つ。いつも不機嫌な顔をしている気がしたけど、もしかして。  真白には大きいが、自分用のサングラスを彼に渡す。  何に使うものかもわからないようであったが、実際にかけさせて教えると、彼は初めて青い空を目を見開いて眺めた。 「眩しく……ない!」  やっぱり、弱視だったか。本当は眼鏡も必要だろうが。  せめて席を一番前にしてやって、彼が見えにくいものがないか注意するようにしよう。  でも、彼の面倒を見ているおばは、当然彼の身体的特徴についても知っているはず。  それなのに、子供の体調に直結することを一切教えていない? そんな……そんな酷い奴、いる訳、ないよな。  自分を無理やり納得させて、嬉々として飛び出して行った彼を追った。  ここの海辺は、リゾート地のような砂浜はないが、子供達が釣りや磯遊びをしている。  最初は正直、沖縄なんかのそれを想像していた。  広くサラサラとした砂浜で日光浴をして、運良く綺麗な貝殻を見つけられたら、それだけで宝物になる。  そこで夕焼けを見たら、日々の疲れを忘れてしまいそうだ。  でも、ここはここでもちろん好きになれそうだ。贅沢にも天然の岩海苔が生えていて、潮の匂いは観光地の海よりもダイレクトに鼻にくる。  真白はサンダルなのに、石の凹凸をものともしないで駆けていて、このバランス感覚は生まれながらに金浦崎村で培ったものなのだな、と感心だ。  こうなれば、自分も年甲斐もなくやってみたくなる。  スニーカーを脱ごうとしていると、目の前にカサッと目立つものが走った。 「ほい」  彼はそれを俊敏に捕まえると、俺の前にやってくる。 「うわあああ!? やめろっ! は、早くどこかへやってくれ!」  何を言っているんだろう。真白はそんな風に首を傾げ、足元の岩に這わせた。 「な、な、な、なんで海にゴキブリがいるんだ……」 「違うよ。フナムシ。先生知らないの?」 「知らない……けど、あれはどう見ても」 「食べると結構おいしいよ」 「聞かなきゃ良かった……」 「先生は、海で遊んだりしたことない?」 「なくはない……けど。学生時代に仲間内とちょっと泳いだり。砂浜で何の意味もなく砂に埋まったりさ。でも、今の子供はみんなゲームだったり携帯だったり進化してるから。外で遊ぶことも少ないんだよな」 「そうなんだ……。げーむ? ……けーたい?」  そこからの知識だったか。あれこれ考えて、なんとか答えを絞り出す。 「とにかく! 子供、いや大人達の娯楽でこれさえあれば生きていけるってくらいのすごいやつ」 「すごい」  なんだか小学生のようになってしまったが、彼は目をキラキラとさせている。  少しでも興味を持ってくれたなら、良かった。  あれ……なんだか、彼の笑顔を初めて見た気がするな。両方のえくぼが印象的だ。  いつもどんより重苦しい表情をしていたから、そのギャップもあいまって、今の彼は太陽のように眩しかった。

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