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第8話
俺も快晴の空を見つめる。
頭上で旋回している黒い鳥が、ピーヒョロロ……という猛禽類のような鳴き声を発した。
俺はそれを指し示し、真白に聞く。
「あの鳥は……なんて言うんだ?」
「うん? あれはトビだよ。都会にはいないの?」
「そうだな。カラスとか、スズメとかくらいしか……。そうか、トビか。ここが自然豊かな証だな」
少なくとも猛禽類なんて、動物園でしか機会がない。
都会でも飛んでいるには飛んでいるらしいが、俺は見たことはない。
真白に比べたら滑稽なほどに体勢を崩しながら、俺も岩の上に乗った。
磯にも様々な生き物が居て、大きな貝殻かと思いきや突然動き出したヤドカリに、彩り豊かなウミウシ。その場に頑として留まっているウニやヒトデ。
真白に勧められて触ってみると、手のひらを吸盤に吸われる動きがくすぐったくて数秒も持たなかった。
「あ! 先生、あそこにも何かいるよ」
「ん? どれどれ……ちょっと待ってて」
真白が言う場所と、今いる場所にはほんの少し距離がある。
生まれたての小鹿のごとき動きで、岩場を渡っていく。
すると、不意に真白につん、と指で背を押された。
俺の情けない平均感覚ではそれだけにも耐え切れず。思いっきり足元から水に浸かってしまった。
「ぎゃあ! うわっ、馬鹿、靴下まで濡れた」
「あはは。裸足じゃないから」
「いや、でも、裸足だと何か刺さったりしたら危ないだろ」
「そんな危ないもの、ないよ」
そっか。こんなにのどかな海だもんな。
硝子の欠片とか、ゴミなんて漂着していないんだ。
真白と話していると新鮮なことばかりで、自分の常識が全て覆ってしまいそうだ。
「やったなぁ……この!」
ずぶ濡れのスニーカーと靴下を岩の上に置いて裸足になり、真白に両手で潮水をかけた。
「ぶはっ。しょっぱい」
「先生を困らせるからだぞ」
「じゃあ、もっと!」
無邪気にフナムシをぶつけられる。
「うぎゃはあぁ!」
それを避けようとしたら、今度は尻から転んで下着もびしょびしょになってしまった。
なんだかもう、この程度気にしたら終わりな気がする。
その日は一日中、真白と磯遊びを楽しんだ。
お互いにたくさんの知らない知識を学び合えて、とても充実した休日だった。
翌日にまた訪ねて来たかと思うと、「本当に赤くも痛くもならなかったから、あの魔法の軟膏をくれないか」と言われ、相変わらずの世間知らずっぷりに苦笑しながらも、余分にある日焼け止めをあげた。
小さなチューブを大事そうに両手でぎゅっと握り締めて、真白は笑った。
そうだな。これで真白が苦手なものは減った。「日向」なんだから、陽と上手く付き合えたらもっと生きやすくなる。
それで真白の笑顔が増えることになるなら、俺は……とても嬉しい。
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