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第9話
職員室で真白に貰った「宝物」を耳に当てた。
波の音がするって本当だったんだな、なんてその音色に耽っていた。
これは日焼け止めの代わりに、と朝貰った。
タカラガイ、というやつらしい。丸くて光沢があって、宝石のような見た目だ。
南国の土産物で見かけたことがあるが、日本の磯で獲れるとは思わなかった。
それより、俺の為に特に綺麗なものを、と探してくれたその気持ちが、何よりの贈り物だ。
「先生ってば、ここのところ真白くんと仲良いねー」
「おわっ!?」
日誌を届けに来てくれた朱にからかわれ、毅然としていればいいものの、なんだか調子が狂ってしまった。
最近、本当に真白のことばかり考えているなと思ったからだ。もちろん、変な意味じゃない。
ただ、普通の子より日常生活において配慮が必要だし、勉強はやればやるほど面白いくらいに覚えが良いし、外のことを教えると何でも興味ありげに食い付いてきて、そういうところがすごくピュアで、笑顔が可愛くて、守ってやりたくなって……。
あれ、なんか違う。
「な、そそ、そんな訳じゃないぞ。俺は、たまたま……」
「いーのいーの! あたしもね、真白くんが楽しそうにしてるの見るの、すっごく嬉しいんだ。真白くん、ずっと地味で、大人しくしててね、喋るのもおばさんとあたし以外にはほとんどないってくらいだったの」
朱は真白と同じ学年だ。幼なじみのように思っているのだろう。
「朱ちゃんは真白と仲が良いのか?」
「仲が良いっていうか……うんとね、分かり合える部分がある、ってやつ。ほら、あたしもお父さんがいないでしょ。お母さんが言うには、あたしが生まれてすぐ離婚しちゃったんだって」
「ああ……そう、だったな。嫌なこと思い出させたならごめん」
「ううん、良いの! あたしのお父さん、お医者さんだったんだよ! 真白くんを取り上げたのもお父さんらしいよ。お医者さんってなかなかなれない職業なんでしょ。それに、薬草とか漢方の知識がある人はいるけど、大きい怪我をした時に治せるのは村には一人だけだったから、ずいぶん尊敬されてたみたい」
大きい怪我、ということは、つまりは外科的処置を行えたのだろうか。
そうか、この村は、医師もいないまま生活しているのか。
だがここでまた一つ、気になる点が浮上する。
そんなにも重要な役割を持つ医師は、何故居なくなった? それも、生まれたばかりの娘が居るのに。
ここでの暮らしぶりをわかっていて家庭を持った訳だから、この村が嫌になったとかそんな単純な理由ではないだろう。村人との確執だろうか。
それにしても、まず家族を置いてきぼりにするなんて……そこまで冷酷な人にも思えないが。
と、すると、朱の父は、自らの意思とは関係なく村を離れざるを得なかった? そう考えるのが妥当だろう。
深い意味はわからないけれど。
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