翌日、“それ”は明確な意思を持って俺を蝕み始めた。 「あれ……美月は？　誰か知らないか？」 　本人や家族からも、休むとは聞いていない。クラスの皆も一様に知らないと首を振った。 　それに、真白の席も空席だ。 　空き時間に二人の家に電話をしたけれど、誰も出ず。 　特に仲良くしていて、真面目な子が同時に休むとは実に気がかりだ。 　結局、放課後になっても二人の姿は見えなくて、仕事が終わってから直接訪問するつもりでいた。 　図体ばかり大きくなる頃でも、まだ精神は未発達の子供だ。 　遊んでいる最中の事故も多いし、何かなければいいが……。 　そう考えながら村の中央に足を踏み入れた瞬間、戦慄した。 「あ、あか、ね……」 　こんなのまるで魔女扱いだ。 　一糸を纏わぬ姿の朱が、村の中心の初日に皆で魚を食らった場所で、口から性器までを串刺しにされて見世物のように死んでいた。 　俺は思わず尻餅をつくと、その場でげえげえと吐瀉物を吐き倒した。 　胃の中のものがなくなって、上を見る。 　青ざめた肌。直視できないほどむごい死体。 　ただ……朱の手足には、おそらくこれは、縄のようなもの……でできたであろう痣があった。 　村人は。誰かいないか。 「誰か！　美月……朱ちゃんが殺されてる！　みんなっ……誰もいないんですか！」 　こんなにも大声で異常事態を叫んでいるのに、野次馬が集まるどころか人が来ない。警察の気配すら。 　そこに、運良く畑仕事を終えたらしい老夫が通りかかった。 「あっ……ああっ！　あの、朱ちゃんが……！」 「おう、先生！　今帰りかい！　今日も一杯やってくかぁ？」 「は……？　何を……言ってるんですか……？」 　老夫はまるで、目の前の朱の死体が見えていないかのように、ところどころ抜けた歯で笑う。 「朱ちゃんが……子供が死んでるんですよ！　今！　そこに！」 「先生……ちょっと疲れてるんじゃないかぁ？　仕方ない、今日は早く帰って寝るといい」 　必死に指を差して訴えても、そちらを見て首を傾げているだけだ。 　目が見えていない訳ではあるまい。この人とは話したことはあるが、歳の割に視力がいいと自慢していたくらいだし、それは周りも認めている。 　何故、見て見ぬ振りのようなことをするんだ……？ 　とてつもなく嫌な予感がして、朱の家に急いだ。 「お母さん！　朱ちゃんのクラスの佐藤です！　大変なんです、あ、朱……ちゃん……が……」 　朱の家を訪ねると、扉越しに母が涙混じりの金切り声を上げた。 「なにを白々しい！　あんたのせいよ！　あんたが来たから朱は死んだんだ！」 　どういうことなのか、皆目見当がつかなかった。 　だが、夫もいない中、ここまで育てた愛娘のあの姿を、彼女も目にしたのだろう。錯乱して当然だ。 　ヒステリックな声を聴いているのはこちらもつらく、いったんその場を離れるしかなかった。