次に、真白の家に向かった。 　真白の家は鍵がかかっていて、必死に声を掛けながらノックをしても、誰もいないようだった。 　おばは用事もあるだろうからともかく、真白は学校も休んで、どこに行ったのか……。 　踵を返そうとすると、ごく小さな、すすり泣く声が聴こえた。 　それを追って勝手口に回ると、要らなくなったものだろうか、古い鍋を被ってその場にしゃがんでいる真白がいた。 　真白はそうして少しでも身を隠そうとしているのか、現実から逃げるかのようにガタガタと震えている。 「そこに居たのか」 「ひいぃッ！！」 「うわ。ま、真白。俺だ」 　悲鳴を上げた真白は、恐る恐るこちらを見る。訪 　問者が俺だとわかると、消え入るような声で「先生」と呟き、突然抱きついてきた。 「ど、どうしたんだ」 　そう聞いても、彼はしゃくり上げて泣いている。 　抱き締める手には加減の効かないほど力がこもっていて、精神的に追い詰められていることが伺えた。 　俺にできることと言えば、真白が落ち着くまで背をさすってやることだけだった。 「朱ちゃんが死んだの、僕のせいだ」 「な……何を言ってるんだ。そんな訳……」 「そうなんだよ！　朱ちゃん、僕のことをいろいろ喋ったでしょ！？　だからっ、だから村長の逆鱗に触れて……」 　朱が真白のことを喋った？　それが村長の逆鱗に触れる？　どうしてそこであんなにも凄惨な殺人が起きるんだ！ 「先生も、殺される、そんなの僕、嫌だ」 　俺も、あんな風に……。 　どうしても、あの朱の無残な最期がフラッシュバックする。 「……真白。この村のこと、お前のこと、話してくれ。俺は……大丈夫。絶対大丈夫だから」 「…………」 　真白がポツポツと話し始めた逸話に、俺は驚愕する他なかった。 　金浦崎村の海には代々、厄災をもたらす人魚が出没するという伝説が根強く残っている。 　その人魚は、おおよそ人間とは思えない……つまり、色素が薄いのだそうだ。 　それ以来、歴代の村長によって、とある儀式が行われるようになった。 　人の皮を被った人魚──アルビノの人間が生まれた際は、成魚となる前、つまり村での大人と子供の境目である「十五歳」の誕生日に、両脚を切断して海へ“還す”のだと言う。 　さながら、本物の人魚のように。