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第12話
「僕は……僕はっ、本当に人魚なんだよ」
「そんなことがあるか。人魚なんて存在しない。真白は地上にいるのに息をしてる。泡にもならなければ、その足で歩いてる。俺と同じ、人間だ」
「でっでも村のみんなは人魚はいるって人魚は呪いをもたらすから海に還してあげなきゃいけないんだって」
「真白、先生を見て」
そう言うと、真白はようやく顔を上げた。
ボロボロと大粒の涙を流し、ひどく怯えていた。それを指で拭ってやる。
「真白。お前の誕生日はいつだ?」
「……九月、二十六日」
「明日、じゃないか……」
そんな。嘘だろう。いくらなんでも時間がなさすぎる。
だが、今わかっていることは一つ。
明日がやって来て、真白が十五歳になったら、間違いなく真白は殺される。
それも、その儀式通り……酷い方法で。
なんてことだ。俺は言ってしまった。高校に進学しろって。村を出ろって。
それが不可能であることは、真白が一番よく知っていた。
何の気なしの言葉で幼い心を深く傷付けた。
「おばさんは? もちろん、儀式のこと、知ってるんだろう?」
「うん。……すごく楽しみにしてる。その家に人魚が生まれたり、大きくなるまで生かしてしまっても、還すことさえできれば“退治”した強い家として、箔がつくんだって」
怪物退治という、傍から聞けば英雄的な行い……つまりそれを成し遂げた先には、食糧や金の援助はもちろんのこと、村内での地位、名誉なども上がるという訳か。
だから椿は真白を庇うどころか差し出そうとしているんだ。
真白を引き取ってからずっと、人としても見ていなかったのかもしれない。
それどころか、自身の地位向上の為の生贄としてある種大事に、村以外の世を知ることがないように、お前は人魚だと洗脳しながら育てていたんだ。
もう、自宅に居させるのも危ない……。
そんなことさせてたまるか。止めるんだ。
でもどうやって? 全然思いつかない。
この村に悪夢のような因習があったなど、想像もしていなかったのだから。
「真白、逃げよう。俺はお前を殺させたりなんかしない」
「そんなの無理だよ」
「じゃあお前はこのまま大人しく死んで良いって言うのか!?」
自分には珍しく、つい感情的に当たってしまった。
だが、真白は少し考え込むように俯き、はっきりと、首を横に振った。
「やだ。嫌だ。死にたくない。死にたくないよ。どうしたらいいの、怖いよ、先生」
「俺がどうにかするから」
口を衝いて出ていたけど、何の策もなし。
ただただ、俺も真白に生きていてほしい。
逃げて、殺人を殺人とも思っていない者達を捕らえてもらい、朱の仇もとる。
そんな感情だけが胸を埋め尽くしていた。
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