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第15話

「やっぱり……あなたが真白をそそのかしたのね」 「つ、椿さん……」  他の村人とは違い、椿は至って平静だった。  ただ、その態度が、艶めかしい口調が、暴力的なものとは種類の違う狂気を感じさせた。 「勉強をするだとか言って、たくさん外の要らない知識を植え付けて、あげくの果てにはこんなものまで……」  椿が袖から取り出したのは、真白にやった日焼け止めだった。  我ながら軽率だった。  あの時は真白が喜ぶことがしたくて──しかし椿の監視下にある家に、真白が誰かから物を貰って来ようものなら、椿に見つからない訳がない。 「真白が自分をただの人間だなんて知ったら、儀式が台無しじゃない」 「ふざけるな! あんたこそ真白を何だと思ってるんだ! 真白はあんたのモノじゃない! 一人の……人間なんだぞ!」  それより、椿の言葉にショックを受けたのは真白だった。 「おばさん……本当、なの……だって僕は……人魚だって……」 「人魚。あははっ。そんなこと、わたくしが信じていると思って? 子供が産めない身体のわたくしがあの村でのし上がるには儀式をするしかないのよ」  椿はそうせせら笑ってみせる。 「子供が産めない女なんてねえ、家畜以下の存在なのよ! 蔑まれて当然。暴力を受けて当然。好きな時に好きなだけ犯されて当然。その屈辱が……あなたにわかって!? あなたのような野蛮な! 男に!!」  椿は誰にも打ち明けられなかったのであろう呪詛を、奇しくも男である俺に吐き出した。  先天性でも、後天性でも。子供が産めない女性の扱いは、この村ではそこまで酷いのか。  男の身でありながら、そんな風に女性を見ている者達の思考が信じられない。  ライトの明かりで、普段は袖で隠れていた片腕に、大きな火傷のような傷が刻み込まれているのが見えた。  物々しいほど着込んでいたのは、そのせいもあったのだろうか。  椿の言う通り、過去に村人達に暴行されていたのだとしたら、身体中に、あれと同じ、いやもっと酷い傷が。  理不尽な虐待を受けていたのは真白ではない……椿自身だったんだ。 「全身真っ白なあなたを見た時……奇跡だと思ったわ。この子はわたくしの子にするって、今日まで立派に育て上げて、退治、してあげるって心に決めたのよ」  恍惚とした表情で、目の前の真白の輪郭を撫でる。  椿にとって、真白は歪んではいるが生きる希望だった。  そうでもしなければ、椿はとっくに壊れてしまっただろう。 「椿さん……。あなたが受けてきた行為は、到底許されざるものじゃない。あなたの心の傷も、簡単には癒えるものじゃない。でもだからって! どうして真白を巻き込むんです!」 「そんなのわたくしが不幸じゃない」  なるべく刺激しないような言葉を選んだつもりであったのに、椿はそれをさらりと言い退けた。 「わたくしだけ不幸なまま死ねと言うの? どうして? わたくしは何もしていないのに。ただ、子供が産めないだけなのに。そんなに悪いことなの。教えてちょうだいよ。ねえ、あなた教師よね、ねえ、教えてよ…………教えなさいよおおおおッ!!」  鬼の形相で真白を奪い取ろうとする椿に、俺は自然と涙が溢れた。  本来の椿は、きっとこんな風じゃなかったはずだ。  子供ができない身体と知って、とても悲しんだだろう。自分を呪いさえしただろう。  そして、そんな弱味に付け込んだ邪悪な者達の欲望の捌け口にされ、海の底より傷付いただろう。  それもこれも、全部村のしきたりの……いや、しきたりを口実にしてきた奴らのせいだ。

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