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第18話
「さて、先生。その子を渡せ。今なら特別に全てを水に流そう」
「そんなこと……死んでもするもんか!」
「海生まれの人外ごときに何故そこまでする必要がある?」
「真白はれっきとした人間だ! だいたいっ、この子は生まれつき色素が薄い体質で、紫外線にだって弱い! だから日光を避けるのも至極当然のことで……!」
「それこそ、人魚の証ではないか。それもそうだ、両親も自分の子が化け物とは思わなかったのじゃから、身を投げたんだろうさ」
真白の両親が身を投げた……? そんなの嘘に決まってる。
彼らが言うに、どれほど前かは知らないが、真白のようなアルビノの人間が以前にもこの村にいたんだ。
だが、知識のない彼らはその人物を差別し、果ては陽の当たらない海から来た人魚などと位置付けた。そういう訳か。
そもそも人魚が呪い扱いされてしまったのは、大しけか、食糧難か、流行病か。
何にせよ、大勢が死んだ出来事があって、それらの時期と重なっただけ……存外現実はそんなものかもしれない。
なんてむごいんだ。こんなこと……村が許したって、天が許したって、俺が許したりはしない。
「そんなことはない! 間違っているのは全部あんたたちの方だ!」
「外から来た者は、皆そう言うものだ。我々が何十年……いや何百年と守ってきた儀式をくだらない正義感で潰そうとする」
「皆……だって?」
という事は、俺以外にもこの儀式にさらされ、そして阻止しようとした人間がいるということになる。
その時、この村のことが外部からはよくわからなかったことを、理解した。
この村人達は、その人間が村から出るのを許さなかった。
つまり……口封じをしたんだ。それも永遠に。
何もしていない人間を、よってたかってなぶり殺したんだ。
何百年もの間、村のしきたりとして、誰一人この儀式に疑問を持たず。
いや、何かの理由で持ってしまい、村から出ようとした者さえ、消されたのかもしれない。
朱の母が口走っていたが、真白を取り上げた張本人である朱の父も、真白を助けたが為に、医師として当然のことをした故に、奴らに……。
完全に狂っている。ガタガタと身体の震えが抑えられない。それでも、真白の手前怯んではいられない。
真白の存在は呪いなんかじゃない。奇跡だ。
この世に生を受けたことが、無事に生まれて来てくれたこと自体が、奇跡の子だ。
それをこの村人らときたら……一般的な常識というものが欠如しているのか?
いや、むしろ……常識どころか、倫理観まで……。
そうだ、そうでなければ平気で朱を殺せるはずがない。真白を捕まえようとなんてできない。
子供達は……大人が誰より守るべき大切な存在だろうが!
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