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第19話

 何が「人魚を海に還す」だ。お前達のやっていることは、人間同士のただの殺戮ではないか。  人生で感じたことのない猛烈な怒りが噴き上がり、奥歯を噛み締める。  金浦学校に通っていた今はまだ小さな子供達も、いつしかこうやって平気で人殺しを覚える時が来るのかもしれないと思うと……儀式として命を軽んじるのかと思うと……冗談じゃない。  他人を傷付ける行為なんて絶対にあっていいはずがない。  ましてやそれを規範となるべき大人が教えるなんて。   よそ者の俺だから言える。  しきたりなんて知らない。この村の歴史の暗部なんて知りたくもない。  ただ、ただ。 「……人殺し共に真白をやってたまるか」  じりじりと村人達が迫る。これでは逃げられない……。  二人では……いや……そうか……一人なら、逃げられる可能性がある。  俺は真白を力一杯押した。  真白が転んだのは、鎖の向こう。これだけ熱狂的な信者達相手だからこその、安全地帯。  まだ俺の車も置いてあった、アスファルトの上だった。 「逃げろ!」 「で、でも、先生」 「走れ! 早く!」  真白はどうすべきかパニックに陥っている。  とにかく落ち着けよう。魔法の言葉を言うんだ。  俺は喉から血反吐を吐かんばかりに叫んだ。 「絶対、大丈夫だから!!」  それを聞いた彼は目に涙を浮かべながら、なんとか立ち上がり駆けて行った。  その背中を見て、ようやく俺は強迫的にもなっていた使命感から解放された。  俺はどうだっていい。長く、楽しく、平穏な幸せが待っているだろう将来のあるお前さえ、生きてくれれば。  村人達の怒号が近くなっていく。 (頼むからあいつだけは生かしてやってくれ)  生まれて初めて、神に祈った瞬間だった。  波の音が聴こえる。  まるで、愚かな人間達を罰するかのような、ひどい嵐の音。  何もかもを消し去ってしまえ。  あの子が笑顔で生きられない世界など、どこにもいらない。

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