43 / 86

4-10

スザクと見た映画は、家族愛をテーマにしたものだった。 スザクと映画を観るというだけでも変な感じなのに、アクションやサスペンスではなく、まさか家族愛の映画だなんて、ユキトはますます混乱した。 ユキトはもう訳が分からず、連れられるままに映画館に入った。 そもそも映画館なんて行ったこともなかったが、いざ映画が始まると見入ってしまった。 内容は、バラバラになった家族が絆を取り戻すといったものだった。 映画が終わった頃には、ユキトは余韻に浸って放心状態になっていた。 「ユキト?大丈夫かい?」 「あ、あぁ。ごめん、スザクさん。俺、映画館とか来たの初めてで、つい見入っちゃって」 「あぁ、それはいいんだけど…、どこか痛いかい?」 そう言われ、ユキトは自分が一筋の涙を流している事に気付いた。 「え、なんで…」 ユキトは涙をぬぐった。 何故、涙が出るんだろう。 涙を流すなんて、何年ぶりだろう。 「ユキトの心に響きそうな映画を選んだつもりだったんだが…失敗だったかな」 スザクが心配そうに言った。 「いや、わりぃ、何で俺自分が涙を流してるのかわからないんだけど、なんかさ、映画っていいなって思ったよ。俺、家族とかいないし、なんかそういう絆みたいなの…いいなって」 ユキトは少し感極まったのか、珍しく長く喋った。 "ずっと一緒にいたい"、"今すごく幸せ"そんなセリフが妙に心に残った。 そんなユキトをスザクは抱き寄せた。 「うわ、なんだよ、スザクさん」 「ユキト、そう感じてくれたなら、この映画を観せた甲斐があったよ。私はユキトにもっと色んなことを見て、知ってもらいたいんだ。喜びとか、悲しみとか、愛とかね」 「愛…?」 「ユキト、外に出ようか。見せたい景色があるんだ」

ともだちにシェアしよう!