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スザクと見た映画は、家族愛をテーマにしたものだった。
スザクと映画を観るというだけでも変な感じなのに、アクションやサスペンスではなく、まさか家族愛の映画だなんて、ユキトはますます混乱した。
ユキトはもう訳が分からず、連れられるままに映画館に入った。
そもそも映画館なんて行ったこともなかったが、いざ映画が始まると見入ってしまった。
内容は、バラバラになった家族が絆を取り戻すといったものだった。
映画が終わった頃には、ユキトは余韻に浸って放心状態になっていた。
「ユキト?大丈夫かい?」
「あ、あぁ。ごめん、スザクさん。俺、映画館とか来たの初めてで、つい見入っちゃって」
「あぁ、それはいいんだけど…、どこか痛いかい?」
そう言われ、ユキトは自分が一筋の涙を流している事に気付いた。
「え、なんで…」
ユキトは涙をぬぐった。
何故、涙が出るんだろう。
涙を流すなんて、何年ぶりだろう。
「ユキトの心に響きそうな映画を選んだつもりだったんだが…失敗だったかな」
スザクが心配そうに言った。
「いや、わりぃ、何で俺自分が涙を流してるのかわからないんだけど、なんかさ、映画っていいなって思ったよ。俺、家族とかいないし、なんかそういう絆みたいなの…いいなって」
ユキトは少し感極まったのか、珍しく長く喋った。
"ずっと一緒にいたい"、"今すごく幸せ"そんなセリフが妙に心に残った。
そんなユキトをスザクは抱き寄せた。
「うわ、なんだよ、スザクさん」
「ユキト、そう感じてくれたなら、この映画を観せた甲斐があったよ。私はユキトにもっと色んなことを見て、知ってもらいたいんだ。喜びとか、悲しみとか、愛とかね」
「愛…?」
「ユキト、外に出ようか。見せたい景色があるんだ」
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