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第16話「告白」

「きいた?佐藤くん」 「え?」 9号館。自分達の教室で遠藤と話し込んでいた入山がこちらを向いた。 義人達のクラスの教室は9号館2階の角部屋で、正面の入り口と、直接外階段から入ってこられる入り口が教室の後方に存在している。 「藤崎くん。Bクラの大井さんに一昨日告白されて、入学したてに2年生の先輩に告白されてたらしいよ」 「うわぁ、、」 顔はいいが性格の悪い藤崎が、何故そうまで人気が高いのだろうか。 義人は初めての授業のときと同じ窓側の1番後ろからひとつ前の席に座っていた。そこからは校舎が立ち並ぶ景色と、手前には広場のように高い建物のまったくないレンガが敷き詰められた部分が見える。 机に頬杖をつき、明日会う事になった麻子とどこへ行くかの連絡を取り合っている。先程電話でもう一度謝罪し、昨夜の件をやっと許してもらえたところだった。 藤崎、片岡、西野は5限でいない。入山、遠藤、義人の3人はこの時間ではなく別の時間の必修授業を取っているため1時間空きができていた。他の3人との放課後の作業に備えて、帰るのではなく教室で待機している。斉藤は最近めっきり見ない。もともと、出席を取るときにしか顔を見てはいないが。 「ほんっとにモテるよねー」 義人の前の席2つに入山と遠藤が座っており、2人して義人と話すために椅子ごと後ろを向いている。 「まあ、カッコいいし優しいもんね」 遠藤の言葉に、入山が言う。女子からしてみれば、やはり藤崎は親切で優しいイケメンと言う最も彼氏にしたい種類の男のようだった。 「あ、これ見て。さっきやっと藤崎くんの妹さんの出てる雑誌の写真見つけてさー、やっぱくっそ美人なんね」 ため息まじりに携帯の画面をこちらに向ける遠藤。その画面には昨日見た藤崎とあまり顔の似ていない綺麗な女の子が、ふわふわした花柄のワンピースに身を包み見事にポーズを取ってこちらを見つめている写真が写っていた。 「これが義理の妹になると考えると、ハードル高いわ」 「大井さんも可愛い子だけど、告白した2年の先輩も美人でさあ」 「藤崎、それどうしたの?」 「フッたらしいよ」 「憎たらしいよねー!私だったらあの2年の先輩と付き合うわー絶対!」 余程美人だったのか、遠藤がお祈りのポーズをしながら天を見上げる。実際には天井なのだが。 義人はじっくり遠藤の携帯を見てから、Bクラスの大井と言う女子を思い出す。毛先をカールさせた茶髪に、パッキリしたメイク、痩せ過ぎと言うくらいに細い女の子だった気がした。 「ふぅん、、じゃあアイツの好きな人、その2人じゃないんだ」 「え、なに!?藤崎くん好きな人いんの!?」 ガッと机を掴んで遠藤が身を乗り出してくる。 「え!?あ、ああ、、いや、話せないから、まずいから、」 「言わないから!絶対!」 「ってゆーか、佐藤くんも誰か知らないんでしょ?」 下手に驚くわけでもなく、携帯をいじりながら視線だけ一瞬こちらに向けた入山が言った。 「うん。すごい可愛くて美人とだけ」 図星である。 興味はあるが、昨日も結局相手が誰なのかだけは聞き出せなかった。 「でしょうね。彼が惚れるなら、でしょうね」 「無理でしょう、美人でないとあの美人の隣に並ぶのは」 はあ、とため息をついて遠藤が元の体勢に戻っていく。迫力が怖すぎて義人はビビり上がっていた。 「、、、遠藤は藤崎が好きとか?」 「あー、ないない。私のこの顔で彼の隣に立ったら疲れるから。目の保養目の保養」 「ははは。目の保養か」 遣わない針金をいじりながら、入山達と会話する。片方の端を義人がいじりながら、反対の端を遠藤が細かくプチプチとバンガチで切り刻み始めた。 「でもすごいよね、あの弥生を退いてまで藤崎くんのハートを掴んだんでしょ?」 「どんだけ美人よ」 「弥生さんて、そんな美人?」 「見る?画像あるよ」 義人はモデルやらアイドルやらに疎い。小さい頃にバラエティ番組等を見る事を父親に禁止されていた為、今でもあまり見ようとしない。そのせいか流行りのものに疎い傾向があった。 そう言ってまた入山がスマホをいじる。しばらくしてから、画面がこちらに向けられた。 「右側ね、右側のゆるふわボブ」 「んー、、あー。確かに可愛い」 「でしょ!?」 何故か遠藤が食いついてくる。 画面に表示された画像は、女の子2人が寄り添って仲良く映っている。その右側の、髪の短い女の子が藤崎の元恋人だった。太めのふんわりした眉に大きな目。左目の涙袋の下に小さなホクロがある。唇はぽってりしていて柔らかそうだった。 「里音ちゃんの交友関係で知り合うんだろうな。藤崎くんが、と言うか女の子の方が寄って行きそう」 自分でももう一度弥生の画像を確認してから、遠藤が携帯を下げていく。 「私は藤崎くんと付き合いたいとか思わないなあ」 入山が自分の携帯を見ながらぼそりと言った。 「なんで?」 「完璧すぎて怖い。それに、なんかあんまり入り込ませないような雰囲気あるじゃん」 「?」 「なんか、こう、、うーんと」 「あー、言いたい事分かる。優しいくせにガード堅い、みたいな。本当の自分見せてくれない、みたいな」 「ああ、、、それならわかる」 遠藤の言葉に義人が頷く。確かに義人から見ても藤崎は、時々どうしたらいいのか分からないような表情をしてくる。何を考えているのか分からない。分からせない。あの強い視線に見つめられると、動けなくなるときがあった。 「なんてゆーか、オーラ?オーラあるよな。目とか、仕草とか」 「わお。佐藤くんからそんな言葉が出るなんて」 「どういう意味だよ」 「さあねー」 時々見せるあの強い視線。怖いと感じるが心地よさもある。ニヤリと笑う嫌味ったらしい笑みも、女の子からしてみれば格好いいのかもしれない。ミステリアスな雰囲気に、皆んな惑わされて、魅了されて藤崎に落ちていく。 (でも、) けれど義人は、昨夜の2人きりの寝室で見たあのふわりと嬉しそうに笑う藤崎を思い出してしまう。毒気のない素の笑顔。触れたくなる頬の優しい歪み。 (俺はあれが良いけどなあ) 昨夜、好きな人の話をしてくれた。 いつもは人をおちょくり、いつも優位に立っているように見える男から出た本音と弱音。 痛い程に感じた、彼の「恋のときめき」の苦しさ。 (好きって、なんだ) 改めて、藤崎の妹と弥生の顔を思い出す。 (、、前の子達より可愛くて綺麗で、引けを感じないような子って言ってたけど。あの妹さんがいるかぎり、引けは感じるだろうな、次の彼女) 何も考えず、藤崎の惚れている相手が可哀想だと、勝手に同情していた。

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