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【2】いきなり、アサインされました!……④
PMである向井と周防はそれぞれ別のプロジェクトで東洋製薬に関わっていたが、それももう終わってしまった。チームは解散で、次のプロジェクトが決まっていない陽向は手の空いたアソシエイトになった。アサインがない状態のことを業界ではアベると言う。
「……あ」
視界に周防の姿が入った。
今日も一糸乱れぬスリーピースの高価なスーツでバキバキに決め、窓側の一番いい席に腰を下ろしている。コーヒーだろうか。パソコンを眺めながら優雅にPPコップを傾けていた。何気なく見ているとふと目が合った。
――うっ……気まずい。
石にされる前に目を逸らす。なるべく周防から遠い席を探した。
EKコンサルティングはフリーアドレスのシステムを取っている。デスクは決まっておらず、個人の机やスペースはない。あるのはロッカーだけで、皆その日の気分に合わせて、それぞれ好きな席に座っている。
パソコンは全コンサルタント共有の仮想デスクトップで、個人のデータはクラウドで管理されている。IDさえあればどのPCから入っても自分のデスクトップが取得できる仕組みだ。これだとフロアの中はもちろん、地方や海外に出張しても同じようにパソコンが使えるので凄く便利だ。
陽向はとりあえず出入り口に近い席に座った。
PCにログインして朝のメールチェックを済ませる。大量にあるメールを流し読みしていると、ふと手が止まった。
RM、リレーションシップマネジメント部からのメールだ。
――へ? 嘘だろ……。
RM部は、経理・会計・総務・庶務などと同じバックオフィスに当たる部署だ。コンサルティング部門を後方から支援し、プロジェクトへの任命 も担当している。ディレクターが会議で出した「新規プロジェクトに数名」「追加でアソシエイト一名」といった要請に応え、プールされている人員の中から最適なメンバーを探し出して調整するのも仕事の一つだ。
そのRM部からメールが来たということは……陽向の次のプロジェクトはもう決まったということだ。
「……ああ、しばらく、ゆっくりしようと思ったのに」
思わず声が出た。
コンサルタントは一般的なサラリーマンのような定型の休暇ではなく、プロジェクトの合間合間に休みを取る。有給を取って遊ぶ者もいれば、自身のスキルを磨くために新しい勉強を始める者もいるが、前者の陽向は心が挫かれた。
落ち込む中、メールを読むとさらに気分が沈んだ。
mail : 緊急 ハイランド・コーポレーションの経営戦略立案について
PMの周防さんからアサインのご要望を頂きました。つきましては、周防さんと本日十七時からご面談頂ければと思います。お部屋は三十五階のカンファレンスルームを予約済です。よろしくお願いします。
「――なんで俺が!」
変な声が出る。
恐る恐るパソコンから顔を上げると遠くに座っている周防とバッチリ目が合った。
――うわぁ……。
周防が無表情のままこちらを見ている。眩しいほどの男前だが細い目が怖かった。
――怖い、怖すぎる。
そもそもプロマネ直々のアサインってどういうことだ。なんで俺なんだろう。俺のこと「ゆるふわ系のくそ虫が」って思ってたんじゃなかったのか……。
陽向は理由の分からないオファーに震えた。
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