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【5】秘密と決意……③

「……たん」  優しく体を揺らされる。唇と心臓に耳を押し当てられている感触があった。 「……冷たい……なんてことだ」  冷凍ダックだ、と低い声が聞こえる。  不意に誰かに抱き締められた。温かくて気持ちがいい。守られている気がして、そのまま大きな体に抱きついた。凄くしっくりくる。上等な毛布に包まれているみたいに幸せだ。 「ああ、クーラーのパネルを操作ミスするなんて……ピヨたんは、どうしてこんなに天然で可愛いんだ」  周防に似た男の声が聞こえる。 「温めないと……」 「うっかり者のピヨたんは俺が守らなければ……」  ウトウトしていると大きな手で頭を撫でられた。宝物のようにゆっくりと慰撫される。  気持ちいい、幸せだと思いながら、徐々に違和感を覚える。  ――ん? この手の感覚、覚えがあるぞ。  頭をなでなでされた記憶がある。よしよしと慰められたこともある。  夢うつつの中、パチリと瞼を開けると目の前に周防の顔があった。  凄く男前だ。横になっていてもカッコいい。睫毛も長くて綺麗だ。  いや、そうじゃない。そうじゃなくて……。  この状況は普通じゃない。おかしい。凄くおかしい。軽めの緊急事態だ。  ――今、俺は周防に抱き締められている?  それも裸に近いバスローブ姿で。中身はもれなくノーパン、ノーシャツだ。  上司で男の周防に抱き締められている。それなのに全然、嫌じゃない。文字通りの包容力にうっとりしている自分がいる。温かくて気持ちがよくて、守られている気がして……って、どう考えてもヤバイだろ。  ――ちょっと待て。俺、今、勃起してる?  自分の股間が若干もっこりしている気がして慌てて腰を引いた。恐怖と動揺と、混乱と安堵が入り混じって、自分でも何がなんだかよく分からない。  だが、これは違う。絶対に違う。周防に興奮したわけではなく、ただのチンコの朝活だ。疲れと眠気で、いつもより早めに活動しちゃっただけだ。若い男としては至って正常な反応だ。  不意にぐいと腰を引き寄せられる。すると自分の太ももあたりに太くて硬いものが当たった。  ん? 太くて硬い?  これはなんだ。熱くてドクドクしている。  熱くて、太くて、大きくて。体の中心にあって、男らしくて。  解析を始めた自分の脳が急にシャットダウンした。  うん。これ以上考えるのはやめよう。  寝たふりを決めようとした時、周防から話し掛けられた。 「怖がらせてすまない」 「いえ。俺は何も知りません。怖がっていません。寝ています。意識はないです。知りません。平気です。大丈夫です」 「怖がりすぎだろ」 「…………」 「入中の体が冷えていたから温めていただけだ。他意はない。……だが、こうなった以上、黙っているわけにはいかない。隠すこともできない。これまで黙っていてすまなかった。俺は入中に話さなければならないことがある。聞いてくれるか?」 「うっ……」  聞きたいような聞きたくないような、なんとも言えない気持ちになったが、自分も勃起している以上、反論はできない。大人しく聞くことにした。

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