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【5】秘密と決意……④
「実のところ……俺は女性恐怖症なんだ」
「え?」
「知っての通り、仕事や友人関係ではなんの問題もない。男性と変わらず、女性と普通にビジネスパートナーとしてやり取りできるし、能力があれば性差は感じない。友人としては楽しく過ごせるし、尊敬もしている。ただ、恋愛だけが駄目なんだ。抱き合ったり、触れ合ったりすると全身がぶつぶつになる」
「全身が……ぶつぶつ……」
「女性アレルギーというか、とにかくそういう場面になると、全身に蕁麻疹が出る。痒くてたまらないし、相手にも引かれてしまう。どうにもならないんだ」
「た、大変そうですね……」
「大変なんてものじゃない。長く苦しんできたし、今も苦しんでいる」
「……はい」
こんなに完璧な男にもそんな落とし穴が用意されているのかと神の悪戯に驚く。思わず天罰という言葉が頭に浮かんだ。でも、なんでだ。どうして周防に天罰が下らなければならない? 周防はストイックで真面目な男だ。大人の優しさだってちゃんとある。
陽向の靴擦れを手当てしてくれたのも、寝落ちの夜を助けてくれたのも、見返りを求めるような打算的な優しさではなく純粋な親切心からくるものだった。周防の太陽のような、母親のような温かい愛情を自分も持てればと、いつも尊敬しているくらいだ。
「とにかく全身に出るんだ。隠しようがない」
「そ、そうなんですね」
「手も足も、顔にもだ」
ドット柄の鉄仮面 を想像して思わず笑いそうになったが、悩みは深刻だ。陽向は心を寄せて続きを聞いた。
「だからといって、男がいけるわけでもない。正統派のゲイというわけでもないんだ」
「……は、はい」
ゲイに正統派とか異端派があるのかは知らないが、悩みは深そうだ。
「女性とは蕁麻疹のせいで行為ができない。だが、男性を見ても性的に興奮することはない。俺はこれまでずっと可愛いものが好きで、そういうものだけを愛でてきた。ほわほわした着ぐるみやぬいぐるみなんかを……。丸くて可愛いものが好きなんだ。可愛さは癒しの根源で、特に人を和ませる着ぐるみは至高の存在だ。もちろん性的な衝動はなく、ただ愛でたい、愛したいと思う気持ちだけがある。毎日、面倒を見て、世話をして、精一杯愛したい。撫でて、可愛がって、その成長を促したい。俺の愛情で温かく見守りたいんだ。愛だけはたっぷりある」
思わず、お母さんですもんねと言いそうになる。
「そんな時、俺の人生に現れたのがピヨたんだった。愛らしいフォルム、明るく温かなひよこ色、つぶらな瞳、素直で一途な仕草、キレのあるダンス。全てが完璧で、全てが理想的だった。俺はピヨたんに恋をした。一目で恋に落ちた。今も恋している。ピヨたんの全部が好きだ。一日のほとんどを……仕事以外でだが、ピヨたんのことを考えている。俺はピヨたん――つまり、入中に本気で惚れている。入中は俺の全てだ。心の底から愛している」
え? 最後の何? なんでそこで急に曲がる? 終盤のアールが強すぎるだろ、おい。
全くもって理解できない。
ピヨたんが大好きなのは分かったが、それは俺じゃない。絶対に違う。俺は人間だ。アヒルの子じゃない。
混乱しつつ、体がカーッと熱くなった。
「あ、あの、俺はピヨたんじゃないですよ。たまたま、あの日、ピヨたんの中に入っただけです。つまり、ピヨたんの中の人です。人間です」
「それは違う。俺はあの日のピヨたんに惚れたんだ。それは入中だ。だから、俺は入中が好きだ。愛おしくてたまらないんだ」
「いやいやいや、俺は違いますから。ピヨたんではないですから」
「ピヨたんを、そして入中を何度か抱き締めたが、ぶつぶつにはならなかった。それどころか体にしっくりと馴染み、胸の中心が温かくなった。他の場所も温かくなったが……」
おい、真面目な顔でしれっと下ネタ挟んでくるなよ。反応に困るだろ。一体、どうなってるんだ。とにかく目を覚ませ。
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