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【6】抱っこで分かる愛おしさ……②
「試しに口紅だけでも濃くしてみましょうか?」
「今日は……いい」
「ですけど、これじゃあ治療になりません」
「なってる」
またぎゅっと抱き締められて、心がじんわりと温かくなる。大きな手の感触が心地よく、もっと撫でてと無意識に体を動かしそうになる自分が不思議で仕方がなかった。疲れているわけでもないのに、周防に甘えたい、よしよしされたいと思ってしまう。
「入中はいい匂いがする。ずっとこうしていたい。離れたくない。大好きだ」
「うっ……」
最後の言葉は聞かなかったことにする……。
「あー、ええと匂いですか? やっぱり俺も、周防さんみたいに香水とかつけた方がいいですか?」
「それは駄目だ。そのままのピヨたんでいてくれ。お願いだ」
「はい。……まあ、いいですけど」
「そのままのピヨたんが好きだ」
「そのままじゃないですけどね、あれ」
周防は相変わらずの無表情だったが、二人でいると時々、穏やかな顔を見せるようになった。周防が変わったのか、陽向のスキルが上がったのか、定かではないが、仕事以外の周防の素顔に触れられることが嬉しかった。
周防のことをもっと知りたいと思う。
ポーカーフェイスの向こう側にある本物の周防に触れてみたい。本当の姿を知りたい。それに触れてどうしたいのかは自分でも分からないが、周防の本質に近づきたかった。
――できそうな気はするんだよな。
陽向は周防と触れ合う中で、女性恐怖症の原因は周防の過去にあるのではないかと考え始めた。周防の必要以上の無表情や、自分の内面を容易には人に見せようとしない姿に、長年培われてきた孤独と諦めのようなものを感じたからだ。
そんな中、九月の連休を利用して、海外で暮らしていた周防の家族――弟と妹、母親が日本に帰国した。父親は仕事のためそのまま香港に残ったようだった。
陽向は周防の義理の母を見て驚いた。若いというよりはまだ幼く、陽向とほとんど年齢が変わらないように見えた。弟と妹も五歳と四歳で、想像していたより小さかった。
「ホントにごめんなさいね。二人がどうしてもって聞かなくて」
「いいですよ。那美 さんも久しぶりの日本で会いたい人がたくさんいるでしょう。ご家族やお友達と色々、ご予定があるんじゃないですか? 息抜きだと思って楽しんできて下さい」
「ありがとう、久嗣 くん。お言葉に甘えて夕方まで自由にさせてもらうわ。じゃあ、空 と杏 もお兄ちゃんの言うことをちゃんと聞いてね」
「うん」
「わかった」
二人は笑顔で母親を見送った。すぐに、兄ちゃん兄ちゃんと周防の足元に纏わりついてくる。どうやら周防は二人としょっちゅうスカイプをしているらしく、今日も遊園地の特設ステージで開かれる着ぐるみのショーに行く約束をしているようだった。
「兄ちゃん、このひと、だあれ?」
兄に当たる空が周防に尋ねた。
「このお兄ちゃんは陽向。兄ちゃんの恋……友達なんだ」
「ともだち? おともだちなの?」
「ああ、そうだ」
空と杏は目をきらきらさせながら陽向に近づいてくる。眩しいくらいに可愛い。陽向はかがんで二人に視線を合わせた。
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