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【6】抱っこで分かる愛おしさ……③

「はじめまして、入中陽向といいます。ひなたって呼んでね」 「ひなた……ひなちゃん?」 「そうだよ」 「ひなちゃん、すっごくかわいいね。かみがふわふわしてて、おめめがおおきい。おにんぎょうさんみたいね」  妹の杏が人懐っこい笑顔で微笑んだ。 「おにんぎょうさんじゃない。まろたんだよ。まろたんににてる! ねえ、兄ちゃん」  空が特別な発見でもしたように、どうだという顔で妹と周防を見ている。まろたんが何かは分からなかったが凄く楽しそうだ。空は陽向の髪に触れると、口を大きく横に広げて笑い、綿菓子みたいにふわふわだと喜んだ。  二人とも周防には似ておらず、表情が豊かで可愛い。すぐに陽向とも打ち解けた。  兄ちゃん早く! と促されて、陽向と周防は二人を連れて外へ出た。  外は透き通るような青空で日差しが心地よく、夏の名残を残した初秋の風が吹いていた。  二人の話によるとまろたんは有名な動物アニメの主人公の名前で、これから見に行くショーの主役らしい。二人はまろたんが大好きで日本でこのショーを見るのをずっと楽しみにしていたようだ。  遊園地に到着すると二人のテンションは最高潮になり、特設ステージまで飛ぶように走った。トイレや喉が渇いていないかを尋ねてみるが、興奮のせいか全く反応がない。陽向は諦めてステージに注目した。  派手なオープニングテーマとともに色とりどりの風船が現れる。子どもたちの歓声に合わせるように風船がふわりと浮いた。その隙間からまろたんの姿が見えた。どうやら、まろたんは雪の妖精のようで、鳥のシマエナガをイメージして作られているようだった。  全体的に丸く真っ白でマシュマロのようにふわふわしている。綿帽子をかぶったような白い頭に、黒くて小さなくちばし、二つのつぶらな瞳がなんとも愛らしい。陽向もあっという間に虜になった。 「まろたーん」 「こっちむいてー」  空と杏は振り向いてもらおうと一生懸命、叫んでいる。それに呼応するかのようにまろたんが両手を挙げて踊ってくれた。可愛い。 「可愛いですね」 「ああ……」  周防はまろたんに見入っている。いつもより明るい横顔が少年のように見えた。本当に可愛い着ぐるみが大好きなようだ。  周防の純粋な姿を見て、理由も分からず胸がいっぱいになる。踊るまろたんの姿と、水のように澄み切った青空を彩りながら飛んでいく風船の美しさに、陽向は感動していた。  ――バリューってやっぱりこういうことなんだ。  目の前にあるのはヘリウムガスの入ったゴム風船とフルスーツの着ぐるみだ。単なる物、道具にすぎない。けれど、その道具が今、感動を生み出している。子どもたちは笑顔になり、壮大な夢が生まれている。  ――ああ、凄いな。  ショーを観ながら様々な思いが浮かんだ。陽向は無意識のうちに子どもの頃のことや祖母の笑顔を思い出していた。  ショーが終わると質問タイムになり、楽しい時間はあっという間に終わってしまった。まろたんは「また会おうね!」と言いながらステージを去った。ふと周防の横顔を見ると泣いているように見えた。  ――え? なんで?  もちろん本当に泣いているわけではなかった。涙はこぼれていなかった。けれど、陽向には泣いているように見えた。  冷静で動じない大人の姿の向こうに、泣いている幼い子どもの周防が透けて見えた。その姿は小さくて不安げで、可愛そうになるくらい心許なかった。精一杯虚勢を張りつつ、誰かの一言で弾けそうになるほど弱弱しく見えた。ピンと背筋が伸びている分だけ、その姿が痛々しく映った。  どういうことだろう。また胸がきゅーっと痛くなった。  声は掛けられなかった。  その姿に周防の本質を見た気がしたのだ。

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