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【6】抱っこで分かる愛おしさ……④

 ショーが終わると、空と杏がトイレに行きたいと言い出した。荷物があるので陽向は観覧席で待つことにした。遠ざかる後ろ姿を眺めていると、三人は兄弟というより本物の親子に見えた。周防はあれこれ世話を焼きながら、それができる喜びを噛み締めているようだった。  ――子どもが好きなんだな。  仕事では厳しいが、プライベートでは陽向に対しても母親のように優しく接してくれる。その見返りを求めない優しさが心地よかった。  ――早く、よくなるといいな。  病気が治れば女性と交際できる。結婚して子どもを持つことも可能だろう。周防なら温かい家庭を築けるはずだ。仕事は忙しいかもしれないが、きっといい父親になる。そう思った瞬間、心臓の裏側あたりがすっと冷たくなった。  心許ないような、不安が静かに根を張るような、落ち着かない気持ち。  手をつないでいる三人の姿の隣に女性が立っているところを想像して、寂しいと思った。  ――寂しい?  なぜ、そう思うのだろう。  隣にいるのがもし自分だったら……。  それを想像して胸が騒いだ。  訳の分からない気持ちにそわそわしていると掃除をしているスタッフから声を掛けられた。スタッフというよりは掃除のおばちゃんだ。 「ちょっと、もう終わったんだからどいてくれる?」 「え、あ、はい。すみません」  おばちゃんの怒気にあてられて思わず謝ってしまった。 「もう……イベントがあるとゴミが増えてホントに大変だわ。ショーがない日は掃除が楽でいいのに、全く面倒だわ」  腰が痛いのか、おばちゃんはぼやきながらしきりに腰のあたりを叩いている。  ふと気になることがあって陽向は尋ねてみた。 「普段はここを掃除しないんですか?」 「え、何? 掃除はするでしょ、仕事なんだから。ただ、何もない日は楽でいいのよ。ゴミも出ないし、ほとんど見るだけで終わるから。でも、ショーがあるとこの通り。スタッフが増えるわけでもないからもう大変なの。イベントがあってもなくても給料は変わらないのよ。だったら楽な方がいいでしょ?」  その言葉を聞いて、陽向はハッとした。同時にあることを思い出していた。

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