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【7】恋はセラピー? ピヨたんを懐かせるための100の方法……⑤
不満だろうか? それとも不安だろうか?
心の内が読めない。
周防の真剣な表情に陽向の鼓動が跳ねる。久しぶりに見る、内側に何かを隠したような目つきだった。
――あの目。
出会った頃は石にされると思っていた周防の静謐な瞳。その差し迫るような視線が陽向に真っすぐ向いていた。
「入中……」
名前を呼ばれて腕を引かれる。思っていたよりも強い力にハッとした。
――え?
顔を上げた瞬間、周防の唇が近づいてきた。
戸惑うより先に唇がふわりと重なった。
時間が止まる。視界が狭まり、周防の姿しか見えなくなった。
息ができない。
これはなんだ、どうしてだ……いや、そうじゃない、そうじゃなくて。なんでこうなっているのかが分からない。今日の治療は終わったはずだ。もう自分は男の姿に戻っている。ウイッグも外したし、メイクも落とした。それなのに、なんでこんな……。
回らない頭で必死に理由を探ろうとする。抵抗したい気持ちと、しなければという戸惑いと、受け入れたい気持ちが交錯した。
――これは、キスだ。
でも、どうして……。
軽く下唇を吸われた後、周防の顔が名残惜しそうに離れた。
周防の唇は柔らかく、吸い加減が絶妙で気持ちがよかった。
こんなキスができるなら……本当ならモテるはずだ。
――優しくて甘いキス。
わずかに切なさを感じたが、すぐさま快感に溶かされた。男なのに一瞬で体がとろけそうになった。
軽いキスでも、こんなにも上手いんだなと感動し、そうじゃないと自分に突っ込む。
ドキドキしていた。
自分でも驚くほどドキドキしている。
「どうかしたのか?」
「い、いえ……」
――おかしい。
自分で自分を誤魔化さなければいけないほど、周防のキスにときめいている。
頭の後ろがぼうっとなった。心臓が肋骨を圧迫するように激しく上下して、背中なんか痺れるように熱い。自分の呼吸音が耳の奥で聞こえている。息苦しくてもどかしい。甘苦しさに胸を掻き毟りたくなった。
さっきのキスと全然違う。
女装姿でしようとしたキスと全然違った。
何が違うのか、どう違うのかも分からないのに、何もかもが違うと思った。世界が急激に切り替わって、光が眩しく、甘い眩暈さえする。周防に触れている手や胸も高揚していた。いつものような安堵感とは違い、もっと触れてほしい気持ちと、これ以上は駄目だと思う気持ちがない交ぜになって襲ってくる。
――なんなんだ、これは。
疑問に思いつつ、ときめきが止まらない。周防の唇をじっと見つめてしまう。
あそこに触れたんだと思い、もう一度、触れたいと思った。
周防の柔らかい唇の感触が去らず、名残惜しい気持ちになる。
「顔が赤いな。具合が悪いのか?」
「違う……」
「蕁麻疹は出ないようだ」
「え?」
「メイクとウイッグをしていないと蕁麻疹は出ないようだ」
「あ、あは、そ……そうみたいですね。よかったよかった。はは」
「本当のキスまでの道のりは、まだまだ遠そうだな……」
「ですね」
陽向は自分の中に起こった衝動を抑えつつ、この状態を本当に誤魔化せているのか不安になった。ちょっと自分はおかしいんじゃないかと頭をひねり、答えを出そうとするものの、体のどこかがそれを阻止する。
この甘くて、切なくて、幸せな――目に見えない感情の塊はなんだ?
分からないのに失くしたくないと思う。ずっと手にしていたいと願っている。
心臓の真ん中が痛かった。
手で押さえてないと変なことを言ってしまいそうだった。
変なこと?
変なことってなんだ?
あの二文字。何かが始まるようなワクワクするような気持ち。周防にそういう意味で惹かれているのだろうか。
――そんなはずは……。
心の奥底で生まれた言葉を陽向は無意識のうちに押しやった。
ああもう、凄くドキドキする。頬の内側が熱い。
その後の周防の会話はあまり耳に入ってこなかった。
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