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【8】ピヨたん潜入す……①

 様々な段階を踏んで、陽向は無事にハイランド・テクノサービスへ潜入した。  これでしばらくの間、周防と気軽に会えなくなる。  周防から普段の写真が欲しいと言われて何パターンか撮影して送信した。全く浮かれている。周防は仕事こそきちんとこなしているが、気持ちが常にふわふわして地に足がついていないようだ。あの顔で意外にも恋愛脳なのだろうか? いつも陽向の様子をうかがい、隙あらば世話ができないかと目を光らせ、すっかり陽向の恋人気取りだ。いや、気取ってはいない。その立場を味わい、噛み締めているように見えた。  いつどんな時も、その無表情の奥に「可愛い」「ピヨたんが好きだ」「世話をしたい」と透けて見えるのが怖かった。見えるのは自分だけなのかもしれないが、盲愛がダダ洩れな気がした。  陽向は陽向で自分を戒めつつも……あ、さっきの写真、よくなかったな、撮り直そう、などとおかしなことになっている。  撮り直す? なんでだ。  ああ、少しでも可愛い俺を送りたいのか……。どうした、自分。  愕然としながら、奇跡の一枚を目指して試行錯誤する。特に可愛く撮れたものを加工して送ると、加工はするなと怒られた。そのままの入中が好きだと言われて、そうか、俺はこれでいいんだと心がじんわりする。  ――ああ、もう……浮かれてるよな。  常に周防のために動いている自分が信じられず、けれど、そんな毎日がこれ以上ないほど楽しかった。朝、ドアを開けた時の空気がこれまでと違う。いつも聴いている音楽のフレーズに感動し、街路樹の緑の鮮やかさやジャンクフードのパテの分厚さにさえ驚く。気分が高揚していた。  周防から連絡が来るだけでテンションが上がる。メッセージの着信音が自分の心臓の弾みと共鳴していた。次の治療はいつにしようかとスケジュールを練り、会えるのを期待して、何をしようか、どんな服を着ていこうかと悩む。周防が喜んでくれるだろうか、笑顔になってくれるだろうかと考えて、自然と自分の口角も上がった。  周防がくれた画像を眺めながらうっとりする。 title:花☆彡  ピヨたんにそっくりな野草(可憐な花)を土手で見つけました。綺麗なので見て下さい。  土手?  そんなところに行ってるのかと思いつつ、嬉しくて白い花を画面の上から指先でなぞった。  ――また普通の姿でデートができるかもしれないしな。  色々なことが変化している。それも、季節が春から夏になるような活動的な変化だ。もっともっと新しい自分を知りたい。そして、まだ知らない周防の姿を見てみたいと思った。  周防に色々な写真を送りつつ、潜入は二週間目を迎えた。最初は仕事の指示だけだったおばちゃん上司とも、休憩時間にお菓子を持ち寄って話をしているうちに打ち解けた。首にスカーフを巻いているせいか女装もばれていないようだった。

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