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【9】その感情にクレジットをつけるなら……①

 仕事終わりに女装姿でもだもだしていると同期の森崎から連絡が来た。人事系のコンサルを担当している森崎は自分のプロジェクトが終わったらしく、飲みに行こうと誘ってきた。久しぶりに飲むのも悪くないと思い、すぐに返事をした。 「いや、潜入してるのは知ってたけど、マジで女装してるなんてなぁ。驚いたよ」  雑居ビルの中にあるイタリアンバルに入るなり、森崎が突っ込んできた。とりあえずビールを頼む。 「仕方ないよ。ハイランドの掃除業務はハイランドレディがやってるんだし」 「にしても、だよ。その格好で通ってんの?」 「男の格好で行ったらロッカー室に入れないからな。途中で着替えるのも馬鹿馬鹿しいし、今はずっとこんな感じだよ」 「けど、板についてるな」 「そうか?」 「ああ。滅茶苦茶、可愛い。俺、全然、抱けるし」 「だけっ……気持ち悪いこと言うなよ」 「おまえ、そんな可愛かったんだな。驚いたよ。目、おっきいし、顔小さいし、肌も綺麗で。これ睫毛にのるんじゃね?」  森崎が陽向の睫毛の上にプラスチックのスティックをのせようとする。 「やめろって」 「あはは。可愛いなぁ。そうやってカツラ着けてると、もう完全に女だよな。メイクも自分でしてんの?」 「……してる」  褒められたのは悪い気がしないが、段々、自分がおかしいことをしてるんじゃないかと、妙な罪悪感が胸に迫ってくる。 「変かな?」 「変つーか、それは仕事なんだから仕方がないだろ」 「まあ、そうなんだけど……」 「ま、俺は気にしない。いや、むしろ気にする! 可愛い!」 「やめろって」  料理が運ばれてきても森崎のからかいは収まらなかった。それどころかどんどん助長してくる。気がつくとピクルスやマルゲリータを小皿に取り分けてくれていた。 「なんで?」 「あ?」 「サッキー、いつもそんなことしないだろ」 「そうだっけ? なんかおまえが可愛いから自然にエスコートしちゃうんだよな。ま、本能だよ、本能。男の本能ってやつ?」 「男の……」 「おまえがいつもと違うんだから、俺も違って当然だろ? 気にすんなって。素直に甘えてろよ」 「そうか」

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