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【11】Long kiss ××× Sleep tight……②

「一番分かりやすい俺から順番に教えていこう」  本当の周防を覚える。本当の周防を知る。  なんて甘いんだと思った。  手を取られて、視線を合わす。目を開いたまま、ゆっくりと唇を重ねた。わずかな隙間を埋めるように粘膜を合わせる。  周防の体温と匂い。唇の柔らかさと重なりの繊細さ。ドキドキするのに指先までとろけてしまいそうになるほど気持ちがいい。  握られている手にも確かな愛情を感じた。  強引なそぶりは一つもない。軽く吸われて見つめられる。またもう一度、軽く吸われて見つめられる。ちゅっという音が恥ずかしいのに愛おしく、周防の熱い視線にも体温がじわりと上がる。  見つめられながら、今度は指先にキスされる。人差し指、中指、薬指と順番に。  自分の指に落ちる柔らかい唇の感触に心拍数が上がる。近い距離で男の長い睫毛や鼻梁の美しさに感動していると、唇がまた元の場所に戻ってきた。呼吸を合わせて、下唇を重ねたままゆっくりと味わうように吸われる。スローモーションのように丁寧で緩やかな口づけだった。  ――この人は……こんなにも優しい。  優しいキスの連続だった。  ――ああ、やっぱり、こんなキスをする人なんだ。  ただ唇を合わせているだけなのに感動に包まれて心が眩いもので満たされる。好きだという気持ちを素直に伝える行為に胸がいっぱいになった。 「ずっとこうしていたい」 「んっ……」 「入中が好きだ」  頭の後ろがぼうっとする。快楽に溶かされそうになって周防の指にしがみつく。支えるように頭を取られて、上唇と下唇を交互に吸われた。周防の匂いに理性が飛ぶ。触れているだけで気持ちがよかった。  隙間を溶かすように舌が滑り込んでくる。そのするりとした感触が気持ちよく、思わず声が洩れた。唇と粘膜を丁寧に舐められる。周防の舌の動きは柔らかく、驚くほど細やかだった。  ゆっくりねっとりと接地面の多いキスが続く。激しさや強引さは欠片もないのに、経験したことのない快楽に襲われて、怖くなるほど感じてしまった。  ――凄く上手だ……。  けれど、技巧を思わせるような、相手を陶酔させて落とすような、狡猾なキスではなかった。  甘くて、優しくて、ひたすら気持ちがいい。  心を通わせながら、大切なものを壊さないように繊細に積み上げていく、そんなキスだった。  耳の裏側に周防の指が滑り込んだ。敏感な軟骨に男の中指が当たっている。耳朶を愛撫するように中指と親指で挟まれてじわりと揉まれた。そうされながら、巧みに舌を絡まされた。  ――あ……。  背筋がゾクリとした。  己の中心はすでに硬く反応しているのに、一ミリも体に力が入らない。また深く舌が絡んでくる。キスだけでこれほどまでに蕩かされ、体の輪郭がなくなりそうになっているのが信じられなかった。 「……嬉しい」  周防が溜息のように呟く。 「そのままの入中とキスしたかった。だから、たまらなく嬉しい。こんなにも……幸せだ」  それは陽向も同じだった。  女装してするキスではなく、治療のキスでもなく、普通のキスがしたかった。その夢が今、叶っている。見つめあう周防の瞳の中に陶然とした陽向の姿が映っている。これはきっと周防も同じなのだろう。  目を閉じたくなかった。  周防との初めてのキスを全部覚えていたかったから……。一瞬さえも逃したくなかった。そして、ここから目が覚めるのが怖くて、これは夢じゃないのだと強く思いたかった。  ――嬉しい。  男としてもコンサルとしてもずっと憧れていた周防が、自分の恋人になってくれた。それがたまらなく嬉しい。まだ信じられないが、これから甘えたり、甘えられたりが普通にできる関係なんだと思うと、なんだかニヤケそうになる。  ――そうか。もう恋人なのか。  その二文字がくすぐったい。声に出して言ってみたくなる。自分にはもったいないくらいの恋人ができたのだと、そう誰かに自慢したくなる。なんなんだ、この胸の高鳴りは。もう止まらない。 「好きだ、入中。一生大事にする」 「んっ……」 「大切に……大切にするからな」  口角からするりと唾液が垂れて、それを人差し指で優しく拭われる。周防の味が口いっぱいに広がって媚薬のように脳が甘く痺れた。 「んっ……はっ……」 「苦しくないか?」  答えの代わりに周防の背中に腕を回す。男の胸の厚さと背中の広さにうっとりした。周防の体は見た目よりもずっと男らしい。舌を吸われながらその背中にしがみついた。  気持ちいい。もう何も考えられない。体が溶かされる。  まだ終わりたくない。あと一時間はキスしていたい。  とろりとした意識の中、陽向は願った。  周防がずっと俺の恋人でありますように。  そして、この甘い時間がずっとずっと続きますように――。

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