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【11】Long kiss ××× Sleep tight……③

 数日後、EKのカンファレンスルームである報告書を見せられた。  オフィスでは一応二人とも、お仕事モードだ。周防の目に甘いものが滲むと陽向が咳払いをする。すると周防の背筋がピンと伸びる。二人は告白の後からこのミニコントを何度も繰り返している。 「それって本当なんですかね」 「この後も尾行は続ける予定だが、間違いないだろう。入中を襲った相手もその連中の差し金だ」  どうやら周防はハイランド・テクノサービスの朝井を長く尾行していたようだ。 「入中から報告を受けた日から彼女のことを調べ上げて、周辺に尾行をつけた。合わせて三週間に及ぶ追尾の結果、彼女がある人物と密会していることが分かった」 「ある人物と密会?」 「そうだ」  陽向はこれまで朝井が自身の業務を簡略化するため、そして、その立場を守るために風評を流しているのだと思っていた。だが、あのジュラルミンの鞄を奪われた日から、この問題が小さなものではなく、なんらかのバックグラウンドを抱えていることに気づき始めていた。 「朝井が誰と会っているか、どういう交友関係があるのか、それを探偵を使って調べた。だが、それ以上の調査を探偵に頼むのは無理だ」  それ以上とはどういうことだろう。 「朝井とある人物が癒着している、確実な現場をつかみたい」 「癒着って……金銭のやり取りとかですか?」 「それも含めてだ」 「相手は、ハイランド・コーポレーションと競合している企業ですね?」 「違う」 「え?」 「驚くなよ。相手はナレッジグループの秘書室長だ」 「え? ホントですか?」  陽向は絶句した。  ナレッジグループは国内最大のホテルグループを持つブリス・リゾートの子会社であり、三つのホテルチェーンのマネジメントを行っている。 「EK(我々)が誘致を予定しているハイランドタワー周辺にはブリス・リゾートが経営するホテルが多数ある」 「え? じゃあ、これまでのことは、外資系ホテルの参入を阻止するための嫌がらせだったんですか……」  信じられない。本当だろうか?  これまでのことは組織的に行われた犯行だったのだろうか。だが、そう考えるのが自然だった。全ての出来事に答えが出る。 「周防さんはそれを一人で?」 「今のところ、プロジェクトのメンバーには伝えていない。確固たる証拠がつかめるまでは話せない。だが、ナレッジグループの秘書室長である赤羽が朝井を買収していることは間違いない。朝井にとってはこれ以上ないほど美味しい話だっただろう。金が貰える上に、自分の業務は楽になり、ハイランドレディとしての立場も確保できる。やるのは噂を流すことだけだ。彼女がしているのはただの雑談にすぎない。罪にもならない。まさにウィンウィンだろう」 「ウィンウィンってそんな……俺、絶対に許せません。ナレッジグループのやり方ももちろんですが、嘘の噂を流して建物の、ひいては企業価値評価(バリュエーション)を下げようとするなんて……あまりにもやり口が汚い。自分は手を汚さずに、人が大切にしているもの価値を下げようとするなんて、許されることじゃないです」  コンサル業とは真逆の考え方に陽向は憤った。

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