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【11】Long kiss ××× Sleep tight……⑥

「なんて幸せな毎日なんだろう。幸せすぎて眩暈がする。やはり、これは夢なんだろうか?」 「夢じゃないです。俺もそんな気がしてますけど」 「恋(わずら)いならぬ、ピヨたん(わずら)いだろうか」 「なんですか、それ」 「ああ、可愛いな」  熱い視線に見つめられながら頭をなでなでされる。  その瞬間、自分の体がふにゃりととろけそうになった。  ――なんだ。やっぱり、自分もそうなのか……。  なんでもないことで胸がワクワクする。体がふわふわする。ああ、今、自分は恋をしているんだと実感する。周防のことしか見えていない、完全に二人の世界だ。  ――俺も相当……重症みたいだな。  周防のことが好きで仕方がない。眩暈ってこの目の前のキラキラのことかと、陽向は思わず薄目になった。 「ん? どうした。眠いのか?」 「まだ大丈夫です」 「ああ、もう寝る時間だな。その前に――」  周防の唇がすいっと近づいてくる。触れそうになってドキリとした。動揺を悟られたくなくてわずかに顔を逸らす。 「入中からキスしてくれ」 「お、俺からですか……」 「そうだ」  いきなりハードルが高い。  キスは何度もしている。けれど、自分からしたことは一度もなかった。  下手くそだと思われたらどうしよう。陽向は周防のように上手くはない。動揺で口元がピヨピヨしてしまう。  近い位置で周防の顔をじっと見つめる。  真っすぐな眉と、長い睫毛が綺麗だと思った。そして形のいい唇も。  ――したい。  できないわけではない。凄くしたい。けれど、男として変なプライドが邪魔をする。できれば周防をメロメロにさせたい。いつもされているように。 「頑張れ、頑張れ。ピヨたん頑張れ」 「そんな冷静な顔で応援しないで下さい……」  本当はそれ以上のこともしたい……。  態度と望みが一致していない。己の心と体も一致していなかった。  男同士の作法もほとんど知らないのに、周防のことを全て知りたいと思う自分がいる。周防にそれを急ぐ様子はない。余裕のある男だし、陽向の世話ができるだけで幸せだと言わんばかりだ。むしろその過程を楽しんでいるようにも見える。 「全部の反応が可愛いな。どれもいい。うむ、次はどうするか――」 「ちょ……俺の戸惑いを可視化するフレームを頭の中で作らないで下さい。嫌です」 「作っていない。ただ、好きなだけだ」  嘘言えと思いつつ反論できない。  こういう周防も好きだからだ。  けれど――  俺だって周防を攻略したい。男らしく、カッコよく周防を落としてみたい。誇れるほどの経験値もスキルもないけれど、自分のキスで周防をとろかせてみたい。自分に夢中にさせてみたい。 「分かりました。じゃあ、いきますよ。俺からキスします」  意を決し、やるぞやるぞと気合いを入れる。フンスと荒い鼻息を出した。  近い位置で視線が合う。周防は笑っていた。 「俺は、やります。やってみせます」 「勇ましいピヨたんか」 「い、いきます!」 「駄目だ。吹く」  周防は肩を揺らしながら背中を丸めた。黒い頭が小刻みに揺れている。周防の膝の上に乗っているせいで陽向の体も一緒に揺れていた。 「じゃあ、俺にその笑顔を見せて下さい。笑ってる周防さんが一番好きだから」

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