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【12】優しく触れて……⑤
「入中の体温を感じたい」
「え?」
「壁に手をついて」
切羽詰ったような低い声。
その声が凄くいい。優しいのに男っぽくてエロティックだ。無条件に従いたくなる。
「大丈夫。怖いことはしない。腰を落として……そう、少しお尻を突き出して。ああ、可愛いな」
周防が後ろから陽向の尻の間にペニスを滑らせてくる。その感触だけで喉が干上がった。
他人の肉の感触。そこにしかない弾力や温度や硬さ。周防の屹立と体液の熱さを感じながら、これを口に含んで味わっているところを想像する。どんな味がして……どんな匂いがするんだろう。今日は無理でも、その日が凄く楽しみだ。
「うっ……」
男の切羽詰った声が聞こえる。尻の肉で挟み込むように周防の雄が天を向いているのが分かった。穴の上を通過するたびに卑猥な音がして、もの凄く興奮する。自分がねちっと周防を欲しがってるみたいだ。
「挿れて」
本能が口をつく。
気がついたら、そう言葉にしていた。好きだから周防が欲しかった。
「そのまま周防さんを俺の中に――」
「駄目だ。煽るな」
「でも……」
「壊しそうだ。挿れたら自制が利かなくなる。やめるんだ」
「周防さんが……好き」
「全く、俺がどれほど――」
「あっ……」
罰のように肩口を噛まれる。周防の理性が皮膚に甘く食い込んだ。
やっぱり優しいと思う。そんな周防がたまらなく好きだと思った。
周防は最後まで挿れなかった。代わりにもう一度、陽向を達かしてくれた。後ろから伸ばした手で陽向の熱を優しく放出させて満足を確認すると、脚の間で擦っていたモノを抜き取った。自分の手で扱きながら陽向の尻に向かって放つ。
「入中――」
「あつっ……」
濃い精液が臀部を伝って太ももの裏側へ流れていく。ツンとする雄の匂いと温かさが心地よかった。自分だけではなく周防も放出してくれたことに安堵する。何よりも、強引に事を運ばなかった周防の優しい気遣いが嬉しかった。嬉しくて幸せで……でも、それが少し切なかった。
――最後までしてもよかったのに。傷ついても平気なのに。
けれど陽向は、心のどこかでこうなることを予想して安堵していた。周防がしないことは多分、最初から分かっていた。だからこそ言えたのだ。
――これって……。
本当は気づいてる。
自分は狡いんじゃないかと。
周防といると楽しくて幸せで温かい気持ちになれる。居心地がいい。
けれど、それは周防が与えてくれているもので、自分が生み出したものではない。
好意を寄せられているという自覚はずっとあった。それに溺れそうになるほど心地がよかった。
けれど、相手の好意が見えて、知れて、それが自分に絶対的に注がれていると思った時、その立場で相手を好きだと思うのは自分の思い上がりなんじゃないか……。想われたから好きになる、自分も対等に相手を想う、それってやっぱり、身勝手なんじゃないだろうか。
周防が見返りなく自分に優しくしてくれたように、自分もそうしたい。打算や交換じゃない愛を与えたい。与えるなんて思うのも、やっぱり身勝手なのかもしれないけど……。
なんでこんなことを考えるんだろう。
変な思考が頭の中をぐるぐる回る。
挿れることを拒否されたのが、そんなにもショックだったんだろうか。
周防は女性恐怖症だと言ったが、根っからのゲイだとも言わなかった。自分が周防に感じている衝動ほど、周防は自分のことをそんな目で見れないのだろうか。我慢してくれたのは分かったが、陽向ほどの強い衝動を感じているようには見えなかった。だとしたら凄くショックだ。欲しがった自分が浅ましく思えてしまう。
愛されるのは嬉しい。幸せだ。けれど、一方的なのは辛い。
――だって……。
自分はピヨたんじゃないから。
俺は可愛い着ぐるみじゃない。
生身の体を持った一人の男だ。
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